第15話 五代との会話②

「・・私は富子様か義尚様が怪しいと思います」

唐突に五代はそんなことを口にした。


「理由を聞かせてくれませんか?」

頼朝と同じ名前を挙げた彼女の考えが気になった。


「・・姫様の遺言が発表された翌日。

 私は義尚様に口説かれました」

ボクは義尚の無謀な行動力と

その根拠のない自信に呆れた。

まさか勝算があるとでも思っていたのか。

いや、勝ち目がないからこそ。

頼家や秀頼よりも先に

行動に移したのかもしれない。

出遅れれば猶更不利になると考えて。

しかし。

五代は義尚のプロポーズを断った。

当然と言えば当然の結果だ。

ボクは日野正義にそっくりな

義尚の顔を思い出してブルっと身震いした。


兎に角、義尚は早くも

花婿争いから脱落したことになる。

つまり

義尚が姫子の遺産を相続するには

遺言状の撤回を求めるのが手っ取り早い。


五代はそう推理したのだろう。

しかし。

その推理には一つ問題がある。


義尚には五代を殺す動機がない。

五代が死ねば夜霧の遺産は

頼家のモノになるのだ。

つまり五代のボート事故は

義尚親子の仕業とは考え難い。


脅迫状の送り主と

五代のボートに細工をした人間は別人なのか。


目の前で不安そうな表情を浮かべている少女に

ボクは無意識のうちに姫島蘭子の姿を重ねていた。

ボクは大きく頭を振った。

蘭子と五代は全く似ていない。

蘭子は五代のように怯えたりしない。

彼女はいつも自信に満ち溢れていて、

目の前の敵を恐れずに

立ち向かっていくような少女だった。


「・・どうしました、先生?」

五代がこちらを見つめていた。

「い、いや・・」

憂いを含んだその瞳にボクは動揺して、

目をそらした。


事件とは関係ないが、

五代の言葉の中に一つ気になることがあった。


五代は夜霧家の人間を呼ぶ時、

「様」を付けていた。

しかし。

頼朝のことは

「さん」を付けて呼んでいる。


本宅を離れて

子の宅で一人で生活していることといい、

夜霧家における頼朝の立場は

思った以上に弱いのかもしれない。


「リーリー。リーンリーン」

外で虫が鳴いていた。


その時、

激しく戸を叩く音がしたかと思うと、

血相を変えた竹千代が飛び込んできた。

「た、大変です。

 頼家様が殺されました」

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