一章 作中人物と現実の人間、脅迫状と遺言状

第4話 作中人物

いつの間にか虫の鳴き声が消えていた。


戸を叩く音がした。

土間に下りると戸口に竹千代が立っていた。

「夕食の時間です。

 そこで姫様から先生に話があるようです」

竹千代はそれだけ言うと踵を返した。

ボクは慌てて後を追った。


家を出ると空はまだ若干明るかった。


前を歩く竹千代は

背丈こそそれほど高くはないものの

その背中は逞しかった。

彼は夜霧家に長年仕えている使用人一家の長。

歳は38歳。

妻の福は20歳も年上である。

小説ではそう紹介されていた。

そんな二人の間に生まれたのが

娘の五代である。

18歳。

ボクと同い年。


「夜霧家では

 食事は皆でとるのが習わしなのです」

ふいに前を歩いていた竹千代が口を開いた。

「そうですか」

とボクは相槌を打ったが、

そのことについてはすでに知っていた。

いや正確には読んでいた。


ボクはこれから相まみえる

夜霧家の人間達について

小説に書かれていた情報を思い出そうと

思考に集中した。



現当主の姫子(ひめこ)

73歳。

夫に関しては記述がなかったので不明。

離婚したのか、それとも死別なのか。

そもそも存在すらしていないのか。

もしかして今後登場するのか。

それは物語の作者である未来にしかわからない。


そして姫子の3人の娘達。

長女の政子(まさこ)

37歳。

次女の富子(とみこ)

36歳。

三女の菊子(きくこ)

35歳。


彼女達にはそれぞれ息子が一人ずつ。

政子の息子の頼家(よりいえ)

富子の息子の義尚(よしひさ)

菊子の息子の秀頼(ひでより)

皆、生まれ月も同じ18歳。


夜霧家にはあと二人、男がいる。

政子の夫の頼朝。

47歳。

菊子の夫の秀吉。

72歳。


富子は未婚の母だった。

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