Twilight
@moyashi-_-
Twilight
部室に置かれた2台の早押し機の前には、私と
6-6の同点。この問題を取った方が、この部活内杯の勝者となる。
つまり、この問題で全てが終わる。
「問題」
司会兼問読みの
「『今私のねが/」
ここで部長の
静かに目を瞑り、彼は腕を組む。
頭の中には答えとなる候補が駆け巡っているのだろう。
そして、静かに解答する。
「翼をください」
その瞬間、聞き馴染んだ正解音が部室中に響き渡る。
彼は顔に笑顔を浮かべながら、小さくガッツポーズをしている。
やっぱり私は、最後まで勝てなかった。
「ということで最後の部活内杯優勝は…
悔しがる私を嘲笑うかのように、部員全員から
全員と言っても、せいぜい数人ほどしかいないのだが。
今日三月十五日は、私、
だから私たち三人にとっては、今日が引退試合だ。
そして私は今日、
高校に入学して、彼に誘われて入ったのがこのクイズ研究部。
私が知らない知識を淡々と答える彼の姿はやっぱりかっこよかった。
「もし、隼人に勝てたら、私、告白しよう。」
そう
「
でも、届かなかった。最後まで勝てなかった。
「二人ともいい試合だったよ。お疲れ様。」
「結局
「まあな」
「お三方とも、これで終わりなんですね。」
後輩の
彼はこの部活の次期部長になる。
「終わらせたくはないけど、仕方がないな。ところで裕人、この黒板に書いてるエキシビジョンマッチって何だ?」
「私も気になってた」
「実は後輩たちからのサプライズとして、エキシビジョンマッチを行わせていただこうと思います!」
「流石次期部長、やるね」
私がそういうと、彼は恥ずかしかったのか、嬉しかったのか、口角が少し上がった。
部室に夕陽が差し込む。
今、目の前には早押し機が3台ある。
左には
「では、エキシビジョンマッチのルールを説明させていただきます。ルールは3○1×
つまり3問正解で勝利、1問誤答で失格です。誤答した場合、その人はその問題の間お休みです」
これは今まで部活で練習したことのあるルールだ。
シンプルながらも駆け引きや押す勇気などが試される奥深いルール。
「さらに今回は答えとなるワードをみなさんからお聞きします。
テーマは『伝えたいこと』です。」
そういうと
「このよく考えたな」
「ではみなさんは、その紙に伝えたいことを2つお書きください」
私は紙に「感謝」「告白」と書いて紙を
他のみんなも
「今から後輩一同、問題を作ります。10分ぐらいで終わる予定ですので、少々お待ちください!」
そういうと彼は、後輩たちを引き連れて部室を後にした。
まもなく10分が経とうというところで、後輩たちが部室に帰ってきた。
「おまたせしました。只今よりエキシビジョンマッチを開催します!」
私たちの拍手で、再び教室が活気付いた。
「ここにみなさんが書いた答えを元にしたクイズが六問あります。ここからランダムに一問取り出し、読み上げます。それでは、準備はいいですか?」
「当たり前だ、部長の意地を見せる。」と
「じゃあ私は問読みの意地を見せる。」と
「そしたら私はこの三年間の努力を結果で見せる。」と私が言う
全員がボタンに手をかける。これが本当に最後のチャンス。
「問題」
部室が静まり返る、息の音ひとつすら聞こえるほど集中している。
「前の人が起こした火が残ってい/」
「
正解音がなる。部室に拍手が巻き起こる。
「正解です。ちなみに続きの問題文は、
前の人が起こした火が残っている間に次の釜を火にかけることに由来する、前任者が退いた後、すぐ変わる人のことを言う漢字二文字は何でしょう?
でした。これは、
「せっかく最後だし、
そういって立ち上がった
「もう俺たちはいなくなる。けれども、クイズは続けるつもりだ。だからまたどこかで会える。その時に戦おう。その時まで、この部活を守ってくれるか?」
「絶対、絶対に戦いましょうね」
「それは、約束する。」
二人は握手を交わした。
数秒間の
「それでは気を取り直して参ります。問題」
「NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』のしゅ/」
私がすぐさま反応し、ボタンをつける。
隼人とタッチの差で私は解答権を得た。
最後に聞こえた”しゅ”は、おそらく主題歌の"主"だろう。
そう確信を持って解答する。
「ありがとう」
正解音が鳴り響き、拍手を送ってもらえた。
「正解です。ちなみに続きの問題文は
NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌として書き下ろされた、
いきものがかりの楽曲はなんでしょう?
でした。これも
「では私も。」
そういうと楓は立ち上がり、一呼吸おいた。
「私はこの部活が大好きです。大学に行ってもクイズは続けるのでまたどこかで会えたら嬉しいです。今まで本当にありがとうございました!」
温かい拍手に部室が包み込まれた。
「では三問目です。問題」
月明かりに照らされながら、もうこの部活に残された時間はほんの僅かであることを痛感する。
「江戸川乱歩、ヴェートーべン、かつし/
私がボタンをつける。正直、現段階では答えはわかっていない。ただ、
このシンキングタイム5秒で答えまで辿り着けるという根拠のない自信があった。
最後の”かつし”はおそらく”葛飾北斎”だろう。となると、この三人に共通することを答えれば正解になるだろう。よって、おそらく答えは…
ひっこし…?
「5.4.3…」
シンキングタイムのカウントダウンが迫る。
答えに確信はある。合っている自信もある。ただ、答えられない。答えたくない。
答えることで遠くへ行ってしまいそうな気がする。消えてしまいそうな気がする。
けれども答えるしかない。解答権を得てしまった私は解答する。
「引っ越し」
今まで、これほどまでにも正解音を願わなかった日があるだろうか。
その思いも虚しく、部室には正解音が鳴り響く。
「正解です。ちなみに続きの問題文は
江戸川乱歩、ヴェートーべン、葛飾北斎らはこれを生涯でたくさん行ったとされる、
今いる住居から別の場所へ住居を変えることを何というでしょう?
でした。これは
隼人が口を開く。
「遠い県に引っ越すことになりました。なのでここにいられるのは今日が最後です。
私は泣きそうな感情を殺して喋る。
「これで、この部活も、私たちも最後だね。楽しかったよ。」
最後なんか嘘だと信じたい。
「だから、このエキシビションは全力で楽しませてもらうよ。」と彼は言う。
最後だ。本当の意味で最後だ。もう終わりは近い。
最後に伝えなきゃ、絶対に後悔する。
震える手で、涙で濡れたボタンを持って。
「
泣いている私を見た
私が少し落ち着いてから一言。
「大丈夫、まだ舞える。」
「では、参ります。問題。」
部室内には重い空気がのしかかる。息が苦しい。でも戦うしかない。
思いを伝えるために。
「英語教師だった頃の夏目漱石は『つ/」
三人全員がほとんど同じタイミングでボタンを押す。
ボタンが点灯しているのは、私だ。
考えることすらままならない。答えもわからない。
何やってんだろう私。何で押したんだろう。
何でこのボタンが付いてるんだろう。今日で終わってしまうのに。
この部室とも、このみんなとも、このボタンとも。
ふと、手元に目をやると、ボタンともうひとつ光るものがあった。
手に落ちた私の涙の
そこで私は閃く。”月が綺麗ですね”
「I love you.」
軽快な正解音が鳴り響き、勝敗が確定する。
少しずつ受け入れたくない現実を受け入れていく。
「ということでエキシビジョンマッチ優勝者は
ああ、やっと勝てたんだ私。あとは思いを伝えてるだけ。
これで全部、終わりにしよう。これが私が伝えたいことだ。
深く深呼吸をし、そう意を決した
この”I love you.”は、誰が提出したのか。
私が提出したのは「感謝」「告白」
そして
「最後に、
「実は私もずっと伝えたかったことがあって」
「月が綺麗ですね」
今日は満月。薄明かりに照らされながら、物語は静かに幕を閉じる。
Twilight @moyashi-_-
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