起きる予想外

 シミュレーションRPG系のゲームとなれば、人によって色々な編成の仕方がある。

 好きなキャラ、性能に寄ったキャラなど様々だとは思われるが……湊の場合は奇跡的に気に入ったキャラの性能が抜きん出ており、信頼度含めて極めまくったことで縛りを意識しなければ編成は特に変わらなかった。


 対ボス、対雑魚のどれにも対応出来るミア。

 ミアと同じように万能なタナトス。

 強固な耐性さえも貫通する状態異常付与のユズリハ。

 ミアを凌ぐボス特化性能を持ったフラン。

 回復と防御を一人で担うローレイン。


 この信頼度を100まで極めた五人が湊にとっていつまでも現役であり最強のメンバーだ。

 四人が表に出て残り一人が入れ替え自由のサポートで戦う……この五人という決まりもちょうど湊にとってちょうど良かったのだが、まさか一人を除いて他の者の名前をこうも早く聞くことになるとは思っておらず、フランかもしれない女性が現れたことに湊は驚くしかない。


「……取り敢えず、それは覚えておくよ。もしかしたらフランも俺を覚えている可能性があるわけだし」

「会いに行く?」

「いや、それは難しいと思う。フランが率いる暗殺者集団は闇に紛れる組織だし、仮にフランが覚えていない場合……若しくは会う前に怪しいと思われたら……それはちょっと考えたくないな」

『ふむ……確かにあれほど厄介な連中はおらんか。本気で身を隠せば我でも気配を探るのは難しいだろう』

「う~ん……そっか。ユズリハよりも百倍話が通じる相手だから行けるかなって思ったけど、湊さんが言うように覚えてなかったらなんだこいつってなるだけだしね」


 しかしながら、ここまで来るとフランとまだ影も形も出ていないローレインも湊のことが分かっていそうだが。


「ネバレス城の付近に近付く者は居ない……けど、それがこの先ずっととも限らない。フランが味方になってくれたら、彼女の作り上げた組織も仲間になってくれて守りも安心……は流石に都合が良すぎるかな?」

「かもねぇ。フランが湊さんのことを覚えていたと仮定しても、彼女の部下からしたら湊さんってなんだよって話だし」

『もしも主に刃を向けようものなら消すまでだが?』

「タナちゃん、一旦物騒な考えは止めようか」


 あちらが敵対するのであればやるしかない……とはいえ、湊としてもかつての仲間が傷付くのはもちろん嫌なので、ユズリハを含めて絶対に敵になってほしくはないと願うしかない。


「ミア、話は終わった?」

「え? あぁうん」

「法国から直接何かをするわけじゃないけど、それでも一応会議というのは必要だからね。これから法王様の元に向かい、情報を纏めましょう」

「あ、なら俺たちは帰るか」

「ごめんなさいね湊さんたち」

「えぇ……湊さん帰っちゃうのぉ?」


 帰らないでと視線で訴えてくるミアだが、湊は心を鬼にするようにグッと堪え、彼女にそれじゃあと手を振る。


「いやああああああっ!」

「はい、いらっしゃいなぁ」

「……失礼する」


 両手を伸ばすも、首根っこを引っ掴まれた猫のようにミアはマキナに連れて行かれた。

 相変わらずアキラは面白くなさそうに見ているのだが、やはり最初に比べたら棘は抜けている……それというのも、ミアが信頼している湊をあまり悪い目で見てはならないと考えてくれているからかもしれない。


『くくっ、いい気味だ。では主よ、帰るとしようか』

「おう」


 こうして湊はレイリニアからネバレス城へ戻るのだが……やはり、聞いた話のせいで王国の動向が少しばかり気になってしまう。

 タナトスの力があれば即座に向かうことも出来るが、やはりここは我慢の時……それか、現在の指揮官で対処しようがない予想外が起きた時くらいだろうか動くのは。


「あ、湊様! タナトス様もおかえりなさい!」


 影から出てすぐ、偶然近くに居たであろうケイが駆け寄ってきた。


「ただいまケイ」

「お仕事は終わったの?」

「仕事ってほどでもないが……一人か?」


 そう聞くとケイは頷く。

 ここにやってきた住民たちが伸び伸びしているのはもちろんだが、それ以上にケイを含めた子供たちがとにかく遊び回っている。

 帝国に居た頃は病もあったし劣悪な環境のせいもあり……そして一番は彼らを傷付ける存在がここにはないから。


「あ、ケイ! ここに居たの……って湊様! タナトス様も!」


 ケイを探していたのか次に現れたのは村長の孫娘であるランカだ。

 彼女は湊とタナトスを見た瞬間、即座に頭を下げたが湊からすればそんな風に仰々しくしてほしくないというのが正直なところ。


「ランカさんや他の人たちにも言ってるけど、俺に対してそこまで大袈裟にしなくて良い。どうか他の人と同じようにしてくれないか?」

「何を仰いますか。そんなこと、絶対に出来ません……あなた様は私たちにとって、何よりも尊き存在でありますから」

「……………」

『主よ、言ったであろう? こればかりは慣れるしかあるまいて』


 そう簡単に慣れるかよ……そんな湊の小さな呟きが響くのだった。

 それからケイは友達の元へ走って行き、湊と小さいままのタナトスはランカと共に村長の元へ。


「やあ村長、腰の具合はどうだ?」

「ほっほっほ、湊様に心配されるようではやれませんな。ですがこの通り大丈夫ですよ。この場所の環境はとても体に良いようでして」

「なら良かった」


 ちなみにこの老人は村長ではないのだが、やはりここに招いた人々を纏める存在というのは必要だ。

 たとえ少なくても彼らをずっと守り抜いてきたこの老人だからこそ、村長としての力を発揮し纏めてほしいと言ったら大いに泣いていたのも記憶に新しい。


「つうか……凄いことになってんな」

「皆頑張っておりまする。湊様に言われたようにまずは自分たちの住居を造り、その後すぐにでも湊様の大豪邸を造りたいと申しておりまして」

『大豪邸か……流石に城を復元は難しいだろうか。なあ村長、もしかしたら我と湊以外にも人が増えるやもしれん。豪邸を建てるのであれば良いものを期待しているぞ』

「お任せくだされタナトス様。なんでしたら、本来の大きさでも寝そべることが出来る庭園なんかも計画しておりますぞ」

『ほお! それは良いな!』


 勝手に話が進んでいくことに湊はまたため息を吐くが、若い衆を中心にして出来上がっていく文明には純粋に驚きを隠せない。

 一体、どれだけの才能を腐らせていたんだと……そしてやはり環境というものが何よりも大事なんだなと、それはこの世界でも元居た世界も同じだなと湊は苦笑した。


『聞いたか主よ! 我でも寝れる庭園だぞ!?』

「良かったなタナちゃん……でもさ、興奮しすぎて俺の髪を噛まないでくれないか」

『興奮から出てしまう愛情表現だ』

「髪の毛を涎でベタベタにする愛情表現は止めてほしいなぁ」


 興奮していた様子のタナトスが落ち着くまで、湊は村長と話を続けていたが気付けば他の人たちが休憩がてら近付いてくる。

 その全ての人たちが頭を下げてくるものだから、またしても湊は勘弁してくれとため息を吐く。


「ため息の吐きすぎも良くないってのに……でも、村長を含めてみんながイキイキしているようで良かった」


 湊は特に意識したわけでもない……それでも言葉は止まらなかった。

 まるで王の演説を聞くかのように、村人たちは一言一句聞き逃すまいと真っ直ぐに湊を見つめる。


「助けて良かった……本当に、本当に良かったって今のあなたたちを見て思う。ありがとう……笑顔を俺に見せてくれて」


 湊はただ、そう伝えたかっただけだ。

 だって本当にそう思ったから……けれど、そんな感情の込められた言葉を彼らが聞いた時、はたしてどうなるかもう少し考えた方が良かったかもしれない。

 彼らには湊が放つどんな言葉も心地良く、そして胸に響く言葉となっているのだから。


▼▽


「はぁ~やっと終わったよぉ」

「こら、せめて気を抜くのは部屋を出てからにしなさいよ」


 湊が村人たちを感激させている頃、ミアはマキナに小突かれていた。

 というのも湊が居なくなったことで彼女は一気に脱力してしまい、法王が去ってから彼女から凛とした姿は消え失せてしまった。

 この場にはミアやマキナを含め、第一から第十までの師団長が全て集まっており……湊のことをまだ知らない者からすれば、このミアの姿はあまりにも珍しいものだ。


「湊さんに会いた~い!」

「そればっかりじゃないのよ!」

「足りないもんねぇ! ふんだ、マキナちゃんは男を知らないから簡単にそう言えるんだよ」

「は、はぁ!? いきなり何よアンタ喧嘩売ってんの!?」


 今の言い方だとミアは男を知っているような言い草だが、生憎と彼女はまだそういうことをしたことはない。

 ミアの発言にいくつもの誤解と衝撃を残したが、そこでマキナのライフォンが着信を知らせた。


「あら? 連絡ね」


 マキナがライフォンを手に取り通話に出たが……そこでえっと声を出して固まる。


(うわっ、めっちゃ予想外なことが起きた顔してる……古今東西、こういう時は何かが起こったって決まってんだよねぇ)


 そして、その予感は的中した。


「……王都の近くにフェンリルが出現したですって?」

「フェンリル……?」


 フェンリル……地獄の使いとも言われる魔獣の名だ。

 だがそう頻繁に聞ける名前ではない……何故ならこの世界において、フェンリルはタナトスほどではないが災厄の到来を象徴させる名前。


「……ふ~ん」


 となれば、きっと王都は凄まじい混乱に陥っているはずだ。

 それでもミアは落ち着いた様子でライフォンを手に取り、湊へと連絡をするのだった――何故なら手立てがなければ、フェンリルを迅速に処理出来るのはタナトスだけだからである。

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