俺だけ触れる美少女白守さんは構って欲しい!

粗茶柱着物

序章

 ──俺はかつて春が好きだった。

 新しい環境。そこで出会う新たな仲間、友人に出会う環境には、冒険心をくすぐられる感覚がRPGのようで好きだった。

 しかし、かつての親友との決別により、それはほぼ真逆のものに変わってしまった。


 嫌いというわけではない。

 桜を見るのは好きだし、何となく春の日差しが好きだ。屋上が解放されているなら昼休みにでもそこで昼寝と洒落しゃれこみたいものだ。

 だが、現実はそれほど優しくない。柏藤はくとう高校の屋上は立ち入り禁止になっている。学校案内の時、担当の生徒せんぱいが言ってた。


 県内では目立つ高校ではないが、特に偏差値が低いわけではない。むしろ少し高めで、制服も男子は学ラン、女子はセーラーと制服のデザインが変わっていないため、俺の中学校の連中はあまり行きたがらなかった。

 かといって進学校ってわけでもないというよく分からない学校だ。


 だが、そのおかげで中学時代の連中とは一緒にならなかった。

 他にも受けたやつがいたとは思ったんだが、奇跡的に落ちたか別の高校に行ったのだろう。


 しかし、誰も同じ学校出身がいないとなるとそれはそれで問題だ。

 珍しがって寄ってくる奴がいるだろう。最初は知り合いで固まるが学校生活に慣れ始めたらほぼ間違いなくこっちに目を向けるだろう。

 声をかけられて友人と思われてしまったら──


 ふと、嫌な記憶が脳裏をよぎる。




 ──この寄生虫が!

 冷たい雨が降りしきる中、俺を背にその場を去るかつての親友。俺はその背中に力なく手を伸ばすことしかできなかった──




 ──もう親友ではない。今はもう知り合いだ。いや、


 ──知り合いと思うことすら嫌だ。


 嫌な記憶を振り払うように、小さく頭を振る。

 新しい環境への不安に抵抗するように自転車のペダルを踏む足に力を入れて学校へ続く川沿いの道を進む。

 川にはまだ少ないが桜の花びらが流れていた。近くには自転車で並走しながら話している連中もいる。

 中には不安そうにうつむきながら歩く人もいる。


 そうだ。目立たないように立ち回って、のらりくらりとやり過ごそう。誰とも接触せず、来るもの拒み去るもの追わず。距離を保ちながら卒業して少し経てば、『そいつ誰だっけ?』と忘れられる。それがいい。 新たな決意を胸に、正門をくぐり新たな世界へ足を踏み入れる。


 大丈夫だ。俺なら上手くやれる。やるしかない。

 もう自分が傷つくのも、他人を傷つけるのも嫌なんだ。

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