白い椅子

 それに座る者は不滅の存在になれる、そう言い伝えられた白い椅子があった。その椅子を巡って諸国の王者・勇者・覇者が相争った。しかし長い間、その椅子は空白だった。

 今は私が座っている。

 そうして分かったこと。この椅子はずっと、空白を埋める者を求めていた。生き血で満たされんとする生贄の皿のように、貪欲に。人々は椅子に贄を与えることを避ける為、伝説を大袈裟に流布して遠ざけようとしたのだと。

 椅子に座った私は空虚になった。もう何百年経っただろう? 私は誰からも知覚できない存在になり、ただ空から人の営みを見守るだけ。

 不滅であること。それは確かに神のようだ。でも、それが?

 私はただ見ているだけだ。何も感じない。


 終【お題:椅子(2024/05/04)】

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