桜に酔う

 君にすっかり酔っちゃったよ、なんて、お上手ね。私なんて可愛げもない、冷たい女なのよ。

 春になったから、こうして顔を出しただけ。夜風を浴びたかったの。柔らかくて、微かに湿っていて。

 コラ、寄りかからないで。貴方もう、すっかりダメになっちゃったみたいね。息が荒いわ。私が誰に見えているの?

「綺麗だよ」

 ……本当、お上手。仕方ないから、騙されたふりをしてあげる。私の腕の中でおやすみ。蕾を開いて、香り高く、しっかり咲いてあげるから。貴方を覆い隠すくらいに。

 サイレンの音がうるさいわね。きっと貴方を探しているのだろうけど、目を覚ます必要なんてないの。流血の痛みも忘れて。ここで静かに、眠るのよ。


 終【お題:酔う(2024/03/02)】

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