入れ歯の味
羽弦トリス
入れ歯の味
僕は誰にも言っていない過去がある。
小学生6年生の頃、足の悪いじいちゃんを在宅介護していた。
僕は、じいちゃんをお風呂に入れる係をしていた。
弟はその頃、4年生。弟はじいちゃんの入れ歯を入れ歯洗浄剤に毎晩浸ける係をしていた。もちろん、ブラッシングも。
じいちゃんはアル中だった。
父、母の不在時はじいちゃんが僕に焼酎のお茶割りをお願いした。
兎に角、うちは在宅介護だったので、遊びに連れて行ってもらった思い出が無い。
兄弟で魚釣りをするのが、唯一の楽しみだった。
そして、僕は入れ歯を浸けているグラスと同じデザインのグラスにコーラを入れて飲んだ。
弟もコーラが飲みたい!と言うのでとっさにじいちゃんの入れ歯洗浄グラスにコーラを入れて弟に飲ませた。
「兄ちゃん、このコーラちょっと変な匂いがする」
「えっ、そう?」
弟は台所に走る。
「もう、何でぇ〜、じいちゃんの入れ歯用のグラスじゃん。オエッ!」
弟は半泣きで、残りのコーラんを流しにこぼした。
僕は大笑いしながら、コーラを飲みながらマンガを読んでいた。
じいちゃんとアイスクリームを食べた。じいちゃんの棒のアイスクリームはどんどん溶けていき、じいちゃんの手がアイスクリームまみれになったので、僕のカップのアイスクリームと交換して、じいちゃんの食べかけのアイスクリームを食べた。
親戚は、優しい孫で良かったねと言って僕にオレンジジュースを飲ませた。
?
オレンジジュースの味がおかしい。匂いも臭い。
「おばちゃん、このコップどこから出したの?」
「ヨシ君が持って来たよ!」
弟は、バカ笑いしていた。
「兄ちゃん、じいちゃんの入れ歯の味はどう?」
「……」
「さっきまで、そのコップにじいちゃんの入れ歯入れて、薬入れて、入れ歯のカスをダシにしたんだよ。この前のお返しだよ」
「うえっ!気持ちが悪い」
僕は、じいちゃんの入れ歯をハメた味がした。
口を直ぐにゆすぎに、洗面所に入り歯磨きした。
そして、トイレに行ってる弟のグラスと交換して、ジュースを飲んだ。
グラスをすり替えたのだ。戻ってきた弟は再びジュースを飲んだ。何も知らずに。
「……」
「兄ちゃん、まさかこのグラス……」
「どう?入れ歯の味は」
「うわぁ〜」
弟は泣きながら、グラスを替えた。
これが、黒歴史である。
入れ歯の味……。
じいちゃんは、その2年後、大腸がんで亡くなった。
僕は大泣きした。
完
入れ歯の味 羽弦トリス @September-0919
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます