第41話「幸せそうなカップル」

「――見て、凄い美人!」

「わっ、ほんとだ! めっちゃかわいいじゃん!」


 電車に乗ってすぐのこと。

 同じ車両に乗っていた女の子たちの視線が、こちらに集まる。

 どうやらルナを見ているようだ。


 普通に歩いていても彼女は凄く注目されるので、やはり目を惹いてしまう見た目なのだろう。

 とてもかわいいので、それも仕方がない。


「てか、胸めっちゃ大きいんですけど……」

「何あれ、反則じゃない……? 外人って、やっぱ凄いんだ……」


 まぁ注目されているのは、顔だけじゃないようだけど。


 でもわかる。

 見慣れていないと、本当に気になってしまうのだ。

 毎日一緒にいる俺でさえ、つい視線が釣られそうになるくらいだし。


 もちろん、気持ち悪がられないよう必死に我慢はしているのだけど。 


「あっ、あの小っちゃい子もかわいい! 妹かな!?」

「髪色違うし、顔も似てないから違うと思うけど……ほんとかわいい……。こんな田舎で、何か取材でもあるのかな?」


 そしてすぐに、ルナの後ろから入ってきたアイラちゃんへと視線が向いたようだ。

 ルナが別格すぎるかわいさなだけで、アイラちゃんもとてもかわいい見た目をしている。

 幼い顔付きの分、そういうのが好きな人間には余計に刺さるだろう。


 ――まぁ、中身は見た目とかけ離れている性格をしているけど。


「一緒にいる男は……モブ役の人かな?」

「パッとしない見た目……。たまたま一緒に入ってきただけで、知り合いじゃないでしょ?」


 二人と一緒にいたことで、俺も注目されたようだ。

 しかし反応は、好意的な視線を向けられていたルナたちとは異なるようで、むしろ《なんでお前がそこにいる?》とでも言わんばかりの視線を感じる。


 ちなみに、ルナとアイラちゃんはICカードを持っていなかったので、切符を購入していた。

 その際に俺の腕から離れているので、連れには見えなかったんだろう。


 まぁ、言わんとすることはわかるけど……。


 自分でも、ルナと釣り合っているとは思っていないし。


「――聖斗様」

「――っ。ル、ルナ……?」


 考え事をしている最中にいきなり手を繋がれ、俺は思わずルナに視線を向ける。

 俺の顔を見上げてきたルナは、悲しそうな笑みを浮かべていた。

 彼女にも、女の子たちが話している声が聞こえたようだ。


 だから、普通に手を繋ぐのではなく、わざわざ指を絡ませる恋人繋ぎをしてきたんだろう。


 ヒンヤリとした彼女の細い指は、繋いでいて気持ちがいい。


「えっ、恋人繋ぎ!?」

「嘘、あの二人付き合ってるの!?」


 ルナの気持ちは嬉しいのだけど、おそらく本人が思ったのとは逆の方向に作用しただろう。

 ただでさえ一緒にいることに関して違和感を覚えていたのに、恋人のように接したら余計に違和感を抱かれるのは当然だった。


「…………」


 自分のしたことが裏目に出たからだろう。

 俺にだけ向けられた顔が、不満そうにプクッと小さく頬を膨らんでいる。

 少し不機嫌そうだ。


 正直、俺のことで彼女が気にして怒ってくれるのは、素直に嬉しい。

 だけど、このままでは良くないだろう。


「俺は大丈夫だから、気にしないで?」


 彼女の気持ちは嬉しいけど、不快にさせたいわけではない。

 ましてやこれから遊園地に遊びに行くわけで、楽しみにしていたルナには笑顔でいてほしいのだ。

 だから俺は優しく彼女の頭を撫でた。


「んっ……」


 頭を撫でられたルナは、気持ち良さそうに目を細める。

 そして、《もっと撫でて》と言わんばかりに、顔を俺の胸にすり寄せてきた。


 かわいい……。


「えっ、彼女さんめっちゃ甘えてる……」

「何あれ、かわいすぎ……」

「凄く幸せそうで……いいなぁ……」


 甘えん坊のルナは、やはり誰の目でもかわいく見えるらしい。

 本当にかわいいので、それも当然だった。


 しかし、そんな幸せな空気も――

「こほんっ……ルナーラ様、人前になります」

 ――アイラちゃんのわざとらしい咳払いにより、壊されてしまった。


 偽名を使って別人になっているとはいえ、いろいろとあるのだろう。


「あっ……頭を撫でて頂けたので、つい……」


 我に返ったルナは、恥ずかしそうに俺から離れる。

 人前では甘えるわけにもいかないんだろう。

 とはいえ、根が甘えん坊の彼女は完璧に制御が利くわけでもないらしい。


 思い返せば、留学初日も学校で甘えてきていた。


 個人的には、甘えん坊のルナが凄くかわいくて好きなので、遠慮せず甘えてきてもらえたほうが嬉しいけど……甘えん坊の彼女を知っているのは自分だけという、愉悦ゆえつ感も捨てがたい。

 何より、彼女が甘えてくると俺も歯止めが利かないと思うし……周りからバカップル認定されないためにも、これでいいのかもしれない。


「ですが、結果オーライではありますね」


 そう言ったアイラちゃんが視線を向けたのは、先程の女の子たちだ。

 もう彼女たちは、嫌な視線で俺を見るようなことはしていない。

 むしろ、羨ましがるようにこちらを見ているので――幸せそうなカップルだと思ってもらえたんだろう。


 嫌な視線がなくなったことでルナの機嫌もご機嫌なものへと戻ったので、俺は楽しそうに窓から景色を眺める彼女の横顔を、温かい気持ちで見つめるのだった。

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