第20話「甘えん坊のお姫様」

「それじゃあ、食べよっか」


 テーブルの上に、作った料理を並べて白ご飯も準備すると、俺はルナに笑顔で声をかけた。


「はい♪」


 ルナは笑顔で頷き――俺の正面ではなく、隣に座ってくる。

 そして、すぐにピトッと体をくっつけてきた。


「ル、ルナ……?」


 全く好意を隠そうとしないルナに、ドキドキと胸が高鳴りながら俺は声をかけてみた。


 この子と接していると、実は付き合っているのではないかと錯覚しそうになることがある。


「私、幼い頃からこのような生活に憧れていたのです……」


 ルナはどこか楽しそうで――そして、この空気を噛み締めるかのようにしながら、まるで熱に浮かされているような表情で俺の顔を見上げてきた。


 その様子は色っぽくもあり、どこか守ってあげたくなるような雰囲気がある。

 正直、かわいくて仕方がなかった。


「ルナは、いったいどういうふうに育ったの?」


 思わず、ずっと我慢していたことを聞いてしまう。

 それくらい、もうルナのことが気になって仕方がない。


 しかし――。


「おそらく、お話をしてしまいますと……せっかくのお料理が冷めてしまいますので。アイラが戻り次第お話をさせて頂ければと……」


 やっぱり、ルナは教えてくれないようだ。

 冷めるということは、簡単に話せるようなものでもないんだろう。

 アイラちゃんが戻り次第ということも踏まえるに、彼女がいないと話しては駄目なことなのかもしれない。


「ごめんね、聞いちゃって」

「いえ……むしろ聖斗様は、よく何も聞かずに堪えられていると思いますので……。本来でしたら、質問の嵐が降り注いでもおかしくありませんのに……」


 謝ると、ルナは首を横に振って申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 話せていないことに、彼女も罪悪感を抱いているようだ。

 やはり、何かまだ話せないわけがあるんだろう。


「うぅん、気にしないで。俺はただ、ルナが話したい時に話してほしいだけだから」

「聖斗様は、お優しくて……いい人すぎます……」


 思ったことを伝えると、ルナが俺の右手に自身の左手の指を絡めてきた。

 それは、それぞれの指を絡める恋人つなぎだった。


 ルナはそのまま俺の肩に頭を乗せてきて、繋いでる手は甘えるようにニギニギと握ってくる。


 なんだ、このかわいい生きものは……。


「あまり買い被らないでね? 俺は大したことがない、ただの日本の一般学生なんだから」


 ルナが俺を評価してくれていることが嬉しいと同時に、心配にもなる。

 彼女にいつか、失望される日がくるんじゃないのかと。


 だって俺には、これといった誇れるものがないのだから。


 勉強は莉音に遠く及ばない平均的なレベルだし、運動は少し得意だけど、運動部の生徒には及ばない。

 部活にも入ってなくて、何か実績を出せたわけでもないのだから、あまり評価されると後が怖いのだ。


「お優しいというのは、とても素晴らしくて素敵なことなのです。何より、聖斗様は特別な訓練を受けておられないのに、厳しい訓練を受けてきた護衛・・のお二人を、倒してしまわれました……。それは、とんでもないことなのですよ……」


 ルナはしみじみとした様子で、俺のことを褒めてくれる。

 だけど、その言葉を聞いた俺は落ち着くどころか、心臓を掴まれた気分になった。


「今、護衛って言った!?」


 思わず、気になった部分を尋ねてしまう。


「そちらに関しましても、ご説明はさせて頂きますので」


 俺がツッコミを入れると、ルナは否定をせずに仕方なさそうに笑みを浮かべた。


 あれ、これって……もしかして俺、とんでもないことをしでかした……?


 思い返すのは、ルナを迎えに来た二人のこと。


 アイラちゃんは未だによくわからないけど、尋常ではない動きを見せた上に、日本では持つことを許されない銃を持っていた。

 何より――もう一人いた女性は、上品さを匂わせる偉そうな人だったのだ。


 それこそ漫画やアニメに出てくる、お嬢様へいろいろと小言を言うメイドのような感じだったので――ルナはやっぱり、アルカディアで暮らす貴族だったりするのかもしれない。


 名前も、異常に長かったし……。


「大丈夫です、聖斗様が何か酷い目にうことはありませんので」


 俺がダラダラと汗をかいていると、ルナが優しい笑みを浮かべながらハンカチで俺の汗を拭いてくれた。

 この反応も、想定内だったのかもしれない。


「本当に、大丈夫なのかな……?」


 ルナが帰ってきて俺の傍にいるのに、あの迎えに来た女性やアイラちゃんから何も言われないのだから、大丈夫なのかもしれないけど――何もわからない今の状況だと、やはり悪い想像をしてしまう。


「大丈夫です、全て話はついて・・・・・・・いますので・・・・・


 まぁ、ルナがそう言うのだったら、信じるしかないか……。


 あまり疑うと、ルナもいい気がしないと思い、俺は彼女を信じることにする。

 嘘を吐くような子には見えないし、天然そうなのに凛として大人の女性のような一面を見せることもある彼女が言うのだから、きっと大丈夫だ。


 そう自分に言い聞かせた俺は、ルナに笑顔を返す。


「そっか、ルナがそう言うなら信じるよ。それじゃあ、ご飯を食べるから手を放してもいいかな?」


 俺は右利きなので、右手で手を繋いでいると食べられない。

 左手でも頑張れば食べられるかもしれないけど、ボロボロとおかずを零すようなみっともないところはルナに見せられないし。


 そんなことを考えていると、右手が空いているルナが箸を手に取り、ニコッと微笑みかけてきた。


「私があ~んをさせて頂きますので、ご安心ください♪」


 そう言ってきたルナの声は弾んでおり、この時を待ち望んでいたかのように見える。

 どうやらルナが、俺に食べさせてくれるらしい。

 

 ……うん、何をどう安心しろと言うのだろう?


「そ、それは、恥ずかしいかな……」


 幼馴染の莉音とさえしたことがないので、女の子に食べさせられるのは恥ずかしい。


 だから反射的に断ってしまったのだけど――

「…………」

 ――ルナはやりたいようで、相変わらずウルウルと瞳を潤わせた、捨てられる仔犬のような目をしてきた。


 本当に、恋人のようなことをするのに憧れているんだな……。


「わ、わかったよ。それじゃあ、食べさせてくれる?」


 俺はルナのこの瞳に弱いようで、折れてしまった。

 この表情、凄くずるいと思う。


「あっ……! ありがとうございます……!」


 しかも、俺がオーケーするとこの表情になるのだ。

 パァッと表情を明るくして、嬉しそうにしてくれる女の子の頼みを断れるはずがない。


「それでは、あ~んです♪」


 ルナは待ってましたと言わんばかりに、自分が作った玉子焼きを箸で摘まんで、俺の口に運んできた。

 俺は恥ずかしい気持ちを我慢しながら、口を開ける。

 すると、ルナはゆっくりと口の中に入れてきた。


「おいしいですか?」


 モグモグと咀嚼そしゃくしていると、ルナはソワソワと体を揺らしながら聞いてきた。

 やはり、自分が作ったから味が気になるんだろう。


「うん、フワフワでおいしくできてるよ。ルナはやっぱり料理の才能があるね」

「そ、そうでしょうか? えへへ……おいしくできててよかったです……」


 俺が再度褒めると、ルナの頬が緩んでしまう。

 もう本当に、かわいすぎてやばかった。


 その後は、ルナが自分も食べながら俺にも食べさせるという感じで、仲良く食事を進めていくのだった。

 同じ箸を使っていたので、間接キスになっていたのだけど……ルナは気にしないらしい。


 ――あれ?

 そういえば……全て話がついてるって、なんの話がついてるんだろ……?


 食べている最中に、ふとルナの言葉を思い出した俺はそう疑問を浮かべるけど、ニコニコと楽しそうにしているルナを見ていると、今更聞くのは気が咎めるのだった。





=======================

【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(≧◇≦)


話が面白い、ルナかわいい、

もっといちゃいちゃが見たい!

と思って頂けましたら、

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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪


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