誘拐されそうになっている子を助けたら、お忍びで遊びに来ていたお姫様だった件

ネコクロ

第1話「二人の馴れ初め」

 猛暑に苦しめられる夏休み中頃。

 平凡な高校生だった俺――桐山きりやま聖斗せいとの代わり映えしない日々は、突然終わった。


『――いやぁ! だれか、たすけてぇえええええ!』


 英語……?


 コンビニにアイスを買いに行った帰り道、何やら女の子が叫ぶ声が聞こえてきた。

 気になり、路地裏を覗き込むと――。


『こら、おとなしくしてください……!』

『暴れては駄目ですよ……!』

『いやぁ、放してください……!』


 黒服に黒いサングラスをした怪しい男二人が、帽子を被っている小柄な女の子の腕を掴んでいた。

 三人とも英語を話していて何を言っているかわからないが、どう考えてもやばい状況だ。


 白昼堂々と、誘拐……?

 警察に通報案件?

 てか、どうして外国人がこんなところで?


 不測の事態に、俺はいろんな思考が頭を巡ってしまう。


 そうしている間にも、女の子は連れていかれそうになっているわけで――。


『助けてください……!』


 俺と目が合った女の子が、涙を浮かべた瞳で俺に向かって叫ぶ。

 さすがに、今くらいの英語ならわかる。


 俺に、助けを求めているんだ。


「警察が来るまでなんて、待ってられないよね……!」


 事情は全然わからないけど、女の子が泣きながら助けを求めてきたんだ。

 目を瞑って去ることなんてできない。


「うわぁあああああ!」

『な、なんだこのガキ!?』

『まずい、見られたぞ! 捕らえろ!』


 一心不乱に突っ込むと、なぜか男の一人が俺に向かって飛びかかってきた。


「ちょっ、なんでこっち来るの!?」


 てっきりこういう時、相手は女の子を連れて逃げるものだと思っていた俺は、予想外の事態に驚きを隠せない。

 咄嗟に、持っていた買いもの袋からカチカチに固まったアイスを取り出し、男の顔面へと投げる。


『いってぇえええええ! なんだこれ!』

「痛いでしょ、硬くて歯が折れるかもしれないってことで、有名なアイスだからね!」


 あまりにも固いから、俺は溶けかけしか食べないんだ。


『くそ、このガキ……!』


 アイスが鼻にぶつかったことで最初の一人が顔を押さえて立ち止まると、女の子の腕を掴んでいたもう一人の男が俺に襲い掛かってきた。


 ――ということは、女の子は解放されたというわけだ。


「走って……!」


 俺は男の後ろにいる女の子に対して叫ぶ。

 意図が伝わった女の子は、コクッと頷いて奥に走っていった。


『しまった……!』

「追わせないよ……!」

『はぅっ……!』


 男が女の子のほうを振り返ったことで、無防備になった背中から俺は股間を蹴り上げる。

 それによって、男は悶絶もんぜつしながら地面に転がった。


 ……痛そぉ……。


「すみません……」


 自分でやっておいてなんだけど、非人道的なことをしてしまったと思った俺は、一応謝りながら隣を走り抜ける。


『待てやクソガキ……!』

「あっ、もう一人も蹴っとけばよかった……!」


 女の子の後を追っていると、最初に倒したはずの男が鬼の形相で追いかけてきた。

 アイスでサングラスが割れたせいで、凄く怖い人相が見えている。


 あの様子……捕まったら何されるかわからない。

 平気で命を奪いそうな人の顔だ。


「てか、足速っ……!?」


 全力で逃げているというのに、みるみるうちに距離が詰められている。

 筋肉ムキムキのようなごつい体をしておきながら、なんでこんなに足が速いんだ……!


『捕まえ――』

「――っ。えぇい、これでどうだ……!」


 追い付かれる直前、俺は急ブレーキをすることで、相手のタイミングをずらす。

 そのまま後ろを振り返り、股間を蹴り上げた。


『がはっ……! こ、このガキ、人の心がないのか……!?』


 男の急所にクリティカルヒットした相手は、二人目と同じように地面へと転がる。


 はぁ……まじで死ぬかと思った……。

 どう考えても、まともにやりあっても勝てないもんね……。


「…………」

「あっ……」


 額の汗を腕で拭っていると、奥にある曲がり角から女の子がこちらを覗き込んでいることに気が付いた。

 あのまま逃げたと思ったけど……こっちのことを気にしていたらしい。


 俺は急いで女の子のところに向かう。


「大丈夫でしたか……?」


 通じるかわからないけど、英語はほとんど話せないので日本語で話しかけてみた。

 すると――。


『凄い……アニメみたいですわ……』


 何やら女の子は、頬を赤く染めながらジッと見つめ返してきた。


 吸い込まれそうなほどに大きくて澄んだ、碧眼へきがんの瞳。

 筋が通った高くて小さな鼻に、薄すぎず厚すぎない桃色の綺麗な唇。

 日本人離れした純白の肌といい――帽子で気付かなかったけど、この子凄く美人だ……。


「危ないところをお助け頂き、ありがとうございました」


 女の子に見惚れていると、彼女は帽子を脱ぎながらお礼を言ってきた。

 どうやら、日本語は話せるらしい。


わたくしは、ルナ・スウィート・クリスティーナ・ハート・アルカディアと申します。お気軽に、ルナとお呼びくださいませ」


 そう自己紹介をする彼女は、桜のように綺麗な桃色の髪を風に靡かせながら、見惚れるほどにかわいらしい笑みを向けてきたのだった。



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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)


新連載を開始しました…!


話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

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