終わりと初まり

最時

第1話 あと三分

「俺には三分以内やらなければならないことがあった」


 前方に停まる車のテールランプが一気に近づく。


 キュッ


 タイヤが鳴り、車が急停車してシートベルトが肩に食い込む。


「こっから渋滞だ。

 行けっ」


「はいっ」


 シートベルトを外してバッグをつかみ、車から飛び出した。


 人でごった返している歩道と渋滞している車道の間を全力で走り抜ける。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。

 あと一分半。

 なんとか間に合うか!」


 広場に着いた。


「来たか。

 あそこだ。

 急げっ!」


 指された指先を見ると500mはあるだろう遙か先でライトが点滅している。


「マジか・・・」


 時計を見るとあと一分。


「諦めるなっ。

 それには俺達、いや町の人みんな、ここに来ている人全ての思いが込められているんだ!

 絶対に間に合わせるんだ!

 行けっ!!」


「はいっ」


 俺は再び全力で走り出すがすぐに息が切れて足が動かなくなる。


「くそっ。

 やはり今に合わないのか」


「あと三十秒です」


 アナウンスが聞こえた。


「そうだ。

 これはみんなで作り上げた特別な一発。

 これが終わりで、初まりの一発なんだ。

 絶対に間に合わすんだっ!!」


 気力で足を動かす。


「10、9、8、7・・・」


 中央の筒にたどり着いた。


「間に合ったぞ。

 そこに入れるんだ」


「はあ、はあ、はあ、はいっ」


 カバンから玉を取り出して筒へ入れると、すぐに先輩が無線連絡する。


「初弾入りました」


「了解」


「3、2、1・・・」


 ドッ・・・ バーンッ!!


 夜空に大輪が咲き、それに続いて次々と打ち上がる。


「綺麗だ」


 涙が止まらなかった。

 隣の先輩を見ると同じように泣いていた。


 打ち上げが一区切りすると信じられないほど大きな歓声と拍手が聞こえた。


 先輩と握手して、そして抱き合った。

 こんなのは、こんなに嬉しいのは初めてだった。


 久々にこの街で見る花火。

 ここからまた始まるんだ。



 そして、再び打ち上げが始まる。


 ここまで来るのにいろいろあった。

 失ったものは多いけど、これを機にきっと俺たちは強く良くなっていく。


「俺たちはやれる!」


 そう強く思った。

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終わりと初まり 最時 @ryggdrasil

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