インスタントヒーロー
佐倉みづき
1
ヒーローには三分以内にやらなければならないことがあった。ヒーローがヒーローたる所以。それは、人々を脅威から守り、悪を打ち倒すことだ。
幼稚園から小学生にかけて、超人マンという特撮ヒーローに夢中になった。超人マンは宇宙人ながら怪獣の脅威から地球を守るヒーローで、普段は人間として人目を忍んで生活しているが、ひとたび怪獣が現れると元の姿に変身して怪獣をやっつける正義の味方だ。地球上で活動できるのは三分間だけ。実際の尺を考えると明らかに三分を超えているものの、インスタントラーメンが出来上がる短い時間で強い敵をやっつけてしまうヒーローの姿は、子供の目にはかっこよく映った。
幼かった自分は、超人マンになりたいと強く願った。七夕の短冊にも書いたし、将来の夢として発表もした。大きくなり、憧れた存在が特撮ドラマの中の存在と知ると、変身前の人間を演じられる役者を目指した。
しかし、子供の時の夢を叶えられる人間はほんの一握りに過ぎない。ましてや「ヒーローになりたい」なんて夢物語を実現できる人間は更に限られている。
結論から言うと、俺は限られた人間にはなれなかった。何度もオーディションを受けたが全て落ちた。ヒーローになるためには整った顔立ちも必須条件らしい。不細工ではないが華もない俺では役不足だったようだ。それでも夢を諦めきれず、変身前がダメなら変身後になれればいい、と体育大学に進学した。
――そうして俺は今、夢を一つ叶えた。
地方の遊園地で行われるヒーローショー。「きみの町に超人マンがやってくる!」といった宣伝文句で地元の子供達を集めた簡単な寸劇。そこで超人マンのスーツの中に入って演技をすることとなった。いわゆる中の人、スーツアクターだ。
といってもプロとして招かれた訳ではなく、ただのアルバイトである。地方の営業だと体育大生のバイトを募ることが多い。俺の狙いはそこだった。今は地道に下積みを重ね、いずれアクション事務所の門戸を叩く。千里の道も一歩から。今日がその記念すべき一歩目という訳だ。
「大変! このままじゃアーク星人が遊園地をめちゃくちゃにしちゃう! みんなで超人マンを呼んで追い出してもらおう! せーの、超人マーン!」
全身を覆うスーツに身を包み、舞台袖で合図を待つ。あと二回、司会の女性が子供達を焚きつけたタイミングで満を持して登場する予定となっている。ヒーローは遅れてやって来るものなのだ。
「あれー、まだみんなの声が足りないのかも。もう一回呼んでみよう! せーの、超人マーン!」
合図はあと一回。よし、と気合を入れて深く息を吸い込んだその時。
悲鳴が轟いた。
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