tomorrow never knows

@5656nya-chan

第1話

 生まれてからずっと走りたくもないレースに参加させられ続けている気がする。

 足の速さ、顔の良さ、頭の良さ、面白さ。何かしらで他人から批評され続けてきた。

「○○君何秒?」「意外と足速いんだねー」

 うれしくねぇ。あなたの事前評価を超えられても、何の達成感も誇らしさもない。

 早く終わらないかな、と希望を抱いてはいるが、噂によると勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いていくらしい。お先真っ暗、いや、この場合お先果てしない闇と言った方が正しい。

 こんなことを言っていたら「努力しねぇ負け犬の遠吠え乙www」と笑われてしまうかもしれない。

 だが、私は言いたい。どうでもいいんだよ、そんなもん。勝ちとか負けとかで生きてねぇんだよ。

 そっちが決めた基準の中の勝ち負けを競い合うよりも、家帰ってアニメ見てる方が100倍楽しい。

 僕は負けないためじゃなく、馬鹿にされないためじゃなく、楽しむために生きたい。


「ゴチャゴチャ言ってるけど、要はペア作れないから今日の体力測定適当書いたんでしょ?普通に校則違反だから。先生のところ行くよ。」

 駄目だ。僕の秘技、『延々とそれっぽいことを言う』が効かねぇ!こいつ、できる!

 今僕を部室から職員室へ連行しようとしている無慈悲なこの女は、僕の所属する文芸部の部長の相沢歪さんである。

 誰にでも優しく、その小さい背丈やほんわかとした雰囲気から、天使というあだ名がついている普段の相沢さんからは想像も出来ないほど冷たい声色と態度だ。

「待って!お願い!話を聞いて!」

「充分聞いたわ!長々と意味のない屁理屈をな!」

「分かった、反省してる!もう二度としないから、先生に報告だけは勘弁して!」

「それ、前に遠足のレクリエーショントイレにこもってやり過ごしたときも言ってたよ。」

「仕方ないじゃん!なんだよ猛獣狩りって!こっちは『蚊』しか倒せねぇよ!」

「『蛾』も倒せるよ」

「あーほんとだー。教えてくれてありがとー。でも次回から殴るねー。」

「とにかく、全然反省してないみたいだから、先生に言いに行きます。」

マズイ。このままだと本当に連れて行かれる。やるしかねぇ、第二の秘技『泣き落とし』を!

「お願いやめて!本当に反省してるから許して。」

「うわぁ。…まぁ、泣くほど反省してるならいっか。」

 よし、なんか序盤顔が引きつってたけど、結果オーライ☆

 さすがの彼女も『もう二度とやらねぇから!文句あるか海賊王!』といわんばかりの僕の泣きっぷりには心を動かされたらしい。

「同級生の前で情けなく泣いて許してもらうって…それでいいんすか?」

 僕が仰向けで泣いている部室の奥からそれはそれは軽蔑した声で質問される。

 その声の主のクソ生意気な後輩の仲野零は、なぜかテーブルの一番奥の席でふんぞり返って長い金色の髪をハンディファンでなびかせている。

 聞くところによるとヨーロッパ系と日本人とのハーフらしく、人形のような整った顔をひどく歪め、ゴミを見るような目でこちらを見ている。ちなみにどのくらい生意気かというと、先輩ってマスク外さない方が良いですよ、とナチュラルに煽られたことがある。こちらには何を言っても良いと思っているようだ。

「馬鹿言うな。恥じらいがある人間にはぼっちなどできん。恥も外聞もないからぼっちなのだ。」

「失敗を恐れて人間関係を構築しようとしないのは、恥がないといえるんでしょうか。」

 僕はその発言に何も言い返すことが出来なかった。

 僕は他人と居るより一人の方が楽しいから一人でいる、はずだ。

 だが、もしかしたら失敗や裏切りへの恐れからそう思い込んでいるだけなのかもしれない。案外僕は、他者との関わりを欲しているのかもしれない。実際僕はこの文芸部に所属している。別に一人でも小説は書けるし、他者からの評価がほしいならネットを使えば良い。

 でも、僕は毎日部室に通っている。

「あー、でも、先輩はこうして毎日部活に来ているわけですし、一応他人との関わりを持とうとはしてますよね。」

 僕が急に黙り込んだから、落ち込んだと思ってフォローしたのだろう。

「そういうところ優しいよな。お前は良いやつだよ。」

 そう言うと彼女は素直に笑った。

「あ、そういえば先輩たちにお願いがあるんですよ。」

 うちの後輩は切り替えが上手な子です。

「先輩たちでハグって出来ますか?」

 うちの後輩は頭のおかしい子です。

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