お亀さん令嬢と呼ばれたが、旦那様と幸せになる

入江 涼子

第1話

 私は何故か、子爵令嬢として生まれたのだが。


 髪や瞳は黒く、顔立ちも両親に全く似ていなかった。いわゆる東方にある島国にあるらしいオカメサンのお面にそっくりな外見だとか。ちなみに、言ったのは外交官を務める父方の叔父だ。それ以来、兄や姉、領地の人達からは『オカメ令嬢』という有り難くない二つ名をつけられてしまう。

 本名はオーレリア・ハンゼルというのだが。年齢も十七歳で適齢期ではある。

 今日も、両親からお見合いの釣書を渡されたのだった。


「オーレリア、お前もお年頃だ。そろそろ、婚約者を見つけないとな」


「そうよ、父様の言う通りだわ。良さそうな相手を探さないと」


「……はあ、私に良い相手ができますかね」


 ため息をつきながら、言った。両親は困ったような表情になり、顔を見合わせる。


「オーレリア、早めに結婚して身を固めた方がいい。兄のイアンや姉のエリナにしたって、今のお前くらいの年には婚約者がいた。儂らを安心させておくれ」


「はあ」


「オーレリア、あなたが外見を気にしているのは分かっているわ。大丈夫よ、あなたの良さを見抜く方が絶対にいるから」


 両親は慌てて、慰めているのか貶しているのか分からない言葉を掛ける。私は曖昧に笑うしかない。


「分かりました、お見合いはします。けど、婚約者が見つからなかったら。その時は修道院にでも行かせてください。私、もう社交界などには未練もありませんし」


「「な、オーレリア?!」」


「父様、母様。私は外見をバカにされても、我慢してきました。けど、もう疲れたんです」


 私は再度、ため息をつきながら言った。両親は顔色を悪くする。


「では、失礼します」


 黙り込んだ両親に一礼をして、書斎を出た。自室に向かったのだった。


 自室に入ると、ドアに内鍵を掛ける。ちなみに、メイドや家令達には一人にさせてほしいと伝えてあった。

 

(あ〜、疲れた。父様や母様も厄介払いしたいのが見え見えよ)


 ヨタヨタ歩きながら、寝室に向かう。ベッドにまで向かい、ダイブした。私は自身の丸っこい顔や体が心底、嫌になってくる。しかも、オカメサンにそっくりだとか子供の頃にからかわれたのは未だにトラウマだ。筆頭になっていたのが、実の兄や姉だからな。救いようがない。私は実の兄や姉が苦手だ。何せ、二人は私を見たら。無視するか、嘲笑しながら文句を言ってくるか。それがお決まりのパターンになっていた。

 なので、兄が王宮勤めの文官になり、王都暮らしになってからは気楽な日々だ。姉も今から、五年前に他家に嫁いでいった。

 私としてはやっと、安心できる時間が取れてホッとしている。


「……お嬢様、シエナです」


「え、一人にしてくれって言わなかった?」


「いえ、旦那様が心配なさいまして。様子を見てくるようにと」


 私は舌打ちしたくなった。シエナは乳母の娘で、私が幼い頃から仕えている。ちなみに、年齢は四歳上で二十一歳だ。


「……もしかして、スペアの鍵で開けたの?」


「いいえ、針金を何本か差し込んで。それを使って開けました」


「シエナ、変わっていないわね」


 私が呆れながら言ったら、シエナは黙る。


「お嬢様、ドア越しで喋るのも何ですから。入りますよ」


「分かった」


 シエナが寝室のドアを開け、入ってきた。長身のスラリとした栗毛色の髪に淡い蒼の瞳が印象に残る美女だ。


「さ、もう夕方ですから。食事をなさってください」


「……シエナ、そんなに食欲がないの。だから、軽食がいいわ」


「分かりました、少々、お待ちください」


 私は頷く。シエナは急いで、厨房に行った。

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