あなたの事が大好きだから
ノート
あなたの事が大好きだから
ふふふ、紘一くんとこんな風におしゃべり出来るなんていつぶりかな。中学、いや小学校以来?高校からは別々の学校になっちゃったし、仕方ないっちゃ仕方ないかな。
それにしても自分の部屋に男の子を上げるなんて、初めてかも。だって今通ってるの女子校だしさ、男っ気なんて全然!私の初めてをあげちゃった!ああっ嘘嘘引かないで。冗談だよ冗談。
それで、今日はなんで私の家に遊びに来てくれたの?
ふんふん、紘一くんって今園芸部に入ってるんだ。たしか中学では陸上部だったよね。なんか意外だな。
元は陸上部に入ってたの?じゃあ転部?……うわあ、信じられない!顧問がパワハラなんて!令和だよ令和!
それはしょうがないよ。
ゴメンね、嫌なこと訊いちゃって。
それで……ふむ、花瓶を割っちゃったと。教室の花瓶に花を活けてる時、猫が窓から入ってきて。追い出そうとしたんだよね。んで、
うんうん、それはしょうがないよ。
だって紘一くん悪くないじゃん。悪いのはその野良猫だよ。
それにクラスメイトは全員部活で出てたんでしょ?紘一くん、猫嫌いなのに頑張ったね。
褒めてしんぜよう。
それで……ほうほう。つい頭に血が上って、捕まえた猫の首を割れた花瓶で切って殺しちゃったと。んで、殺したはいいものの、死体を花壇に埋めようとしてたのを先生に見つかっちゃったと。
うんうん、それはしょうがないよ。
だってその時、夕方遅くだったんでしょ?そんな時間に教師が通りかかるだなんてわかんないって!
てか割れた花瓶で殺したの?ダメだよ、ケガしちゃうじゃん!……よかったあ、特に傷は無いみたい。
先生も殺したの?ふーん、園芸バサミを事前に持ってたのね。用意いいじゃん。じゃあそれで今回も首を……。
ありゃ、逃げられちゃったの。しかも校外に。へー、その若森先生って足早いんだね!それとも火事場のナンチャラかな。
でも紘一くんのが足早いよね!よっ、インターハイ準優勝!……それじゃ学校裏の公園で殺せたわけだ。
あれっ、結局園芸バサミは使わなかったの?なるほど羽交い絞めにして噴水で溺死させたのね。
落ち込まないで。それはしょうがないよ。
大人しく捕まらない若森先生が悪いんだ。予定通り殺せなかったからって落ち込んじゃダメ。まあ溺死の方が苦しいって聞くし、結果オーライじゃない?
……そっか、時間かかっちゃったから見られたんだ。殺すとこ。ふむふむ、近所に住んでるおばさんね。
当ててあげよっか……鈴木って苗字でしょ!ふふーん、これでも人の名前憶えるの得意なんだよね。近所の人たちとはみんな顔見知りだし、特徴聞いたらすぐにピンときちゃった。
そっかそっか、鈴木のおばさん、車に乗ってたんだ。多分電話か何かで公園前に停車してたんだろうね。それですぐ逃げられちゃったと。
色も車種もナンバーも分かってたらすぐ家特定できたでしょ。鈴木さんの家、公園のはす向かいだしね。
庭から窓割って押し入ったんだ。ワイルドだね~!まあ隣はみんな帰ってくるの遅いし、夕方ならいけるいける。
今回は園芸バサミ使えたんだ!良かったじゃ~ん!園芸部の面目躍如だね!!
ほほう、そうこうしてると娘さんが帰ってきたと。円佳ちゃんだね。いい子だよ~、ノート見せてくれるし!んで……ありゃりゃ、また園芸バサミ使っちゃったんだ。
うんうん、それはしょうがないよ。
直前に殺しに使った道具をもう1回使うって、なんだか気持ち悪くなっちゃうよね。こう、他人のコップで間接キスするみたいな……うーん、いい例えが浮かばないなあ。
でもま、急いでたんだししょうがないよ。それに刺殺なら音も出ないし近所迷惑にはならないしね。
そうして遺体はブルーシートに包んで庭に埋めて、家も綺麗にしたと……。後片付け出来て偉い!!
でもでもそしたら日もとっぷり暮れちゃうよね。ああ~、やっぱおじさん帰ってきちゃったかあ。
うんうん、それはしょうがないよ。
鈴木のおばさんも円佳ちゃんも太り過ぎだしね。むしろちゃんと後片付けした紘一くんが偉い。
おっ、おじさんは庭のレンガで殴り殺したんだね。反省が生きてる。
でも庭に埋めようとしたときに、ちょうど隣の家の電気がついてるのに気づいたと。
んで、学校から帰ったばかりの私が覗いてたのに、紘一くんは気づいたわけだ。
それで、私の家に押し入ってパパもママも愛梨もペペも殺して殺して殺して殺して、私の部屋まで来てくれたってわけ。
ああっ、泣かないで。紘一くんは瞬間瞬間を必死に生きただけ。必死に考え抜いたからこそ、こうやってみんな殺すのが最善手になっちゃっただけだよ。
うんうん、しょうがない。しょうがないよ。
大丈夫だよ、嫌いになんてならないよ。だって——
あなたの事が大好きだから ノート @sazare2023
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます