第3話
大分薄暗くなっている外に出ると、もう七月も下旬だったが程よく風が吹いており、少し肌寒くすら感じた。
「この辺りはそんなに暑くなくて過ごしやすいね。」
そんなことを言いながら作田とともに集落をまわると、どの家も見事に写真の家と同じような造りだった。
かなり年季が入った家ばかりで、どうやらどの世帯も修繕しながら同じ家に住み続けているようだ。市街地から遠く離れているため、業者を呼ぶのも一苦労だろうし、ましてや重機を運ぶなど・・・厳しいだろう。
ここに来るまでに自分が通ってきた道を思い出し、そう思った。いくら車があるとはいえやはり不便な場所である。
だがその不便さがこの家を現代まで残してくれているのだから、それが一概に悪であるとも言えないのかもしれない。
集落をぐるっと一周したところで疲れがピークに達し、私たちは宿に戻ることにした。
明日の計画などをだらだらと話しながら歩いていると、ふと視界の端を子供が横切った。普段はすれ違う人になどいちいち意識を向けはしないが、その時は子どもの異様な状態に思わず振り返ってしまった。
その子は少し背が低く、痩せぎみの女の子だった。年齢でいえば小学生くらいで、もう日が傾いているのにどこを見つめているのか分からない虚ろな顔でたった一人で私たちとは反対の方向へと歩いていた。それだけならばしかし特筆すべきはその子の腕や顔に遠目からでもわかるほどの痛々しい、大きな火傷跡があったことである。
明らかに虐待を受けている。
そうとしか思えなかった。この子がどこの家の子なのか、なぜこんなひどい怪我をしているのか、私は全く知らない。それでも放っておくことなどできず、声をかけようと駆け出した。
「ねえ、」
その少女は歩いていたのですぐに追いつき、彼女から見たらよそから来た見知らぬ大人という立場上なるべく怖がらせないよう声をかけた。
自分の少し後ろにいた私の呼びかけに彼女はたいそう驚いた様子で、こちらに一瞬怯えた目線を向けると、さっと振り返りそのまま薄暗い路地裏へ走り去ってしまった。
すぐにそのあとを追いかけようともしたが辺りは暗く、すぐに見失ってしまった。
私と作田はこれ以上どうすることもできず、しばし無言で互いの顔を見合わせるしかなかった。
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