フードファイター・三分
七倉イルカ
第1話 フードファイター
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
目の前の卵。
この卵を三分以内に割らなければならないのだ。
◆◇◆◇◆◇◆
地球とカク星が交流を始めたのは、八年前である。
映像通信で情報交換が繰り返され、カク星人が人間型であること、カク星の大気成分、重力などが地球とほぼ同じだということが確認された。
その後、地球の代表団がカク星に、カク星の代表団が地球へと訪れた。
科学、文化、技術の交流が行われ、今年になって、選出された一般人による渡星が行われることとなった。
そして、その中の一人に俺が選ばれたのだ。
俺は、主に動画配信で生計を立てているフードファイターである。
大食い、早食い、食レポで再生数を取っている。
この業績が認められ、カク星の食文化を調査する民間人として選ばれたのである。
カク星に到着して三日目、口にした食べ物は、味付け、香り、食感、栄養、どれも満足できるものであった。
もちろん、食後に体調をくずしたこともない。
そして、今日はガイドのカク星人、ヨムと共に街を観光することになった。
観光といっても、目的は食べ歩きである。
ヨムと共に、大きな商店街風の商業区画を歩き、目に付いたものを買い、口に運んだ。
「よく食べますね」
ヨムが目を丸くして言う。
「まだ、腹三分だよ」
俺は笑って答える。
会話は翻訳機を使って行っている。
「でも、まだ午前中なのに、熟成ギマ串、生ノタ、饅団筋、粘米々、モモネ巻き、トリチョ、内臓揚、汁トーソン、麺十軟モツ包み……」
ヨムは指を折りながら、俺が食べたものを数え始める。
翻訳機での会話は問題が無いが、固有名詞の翻訳については、まだまだ改善が必要のようであった。
ちなみに、文化交流の時点で、カク星の自転周期が地球とほぼ同じことが分かり、カク星は一日の時間を24分割し、午前午後に区別する制度を取り入れていた。
「……あれは、何の集まりだ?」
俺はヨムにたずねた。
前方に広場があり、大きなステージが組まれている。
そのステージの前に、大勢のカク星人が集まり歓声をあげているのだ。
よく見ると、ステージ上には二つの透明なボックスが設置され、中に一人ずつ、カク星人が入っているようであった。
「あれですか。
あれはフードファイターが勝負をしているのです」
翻訳機を通してヨムが答える。
「フードファイターだって!?」
俺は驚いた。
カク星にも、フードファイターという職業があるのだ。
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