KAC20241白い部屋

綾野祐介

KAC20241 白い部屋

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 それは「俺が三分以内にやらなければならないことを見付ける」ことだ。


 それを見付けられなければ、何がどうなるのかもわからないが「やらなければならない」ことを見付けないと大変なことになる、という実感はある。


 俺が今いる所は壁、床は真っ白で天井は銀色。窓もドアもない部屋だった。俺の腕には電光掲示板付の腕時計が嵌められてており掲示板には「三分以内に君が為さなければならないことを見付けろ」と表示されていた。そして掲示板が時計に変わって三分のカウントダウンが始まった。


 ここまで手の込んだことをやってのける相手だ。意向に沿わない結論を出せば俺がどうなってしまうのか想像も付かない。


 例えば部屋ごと爆発してしまう、というような大掛かりなこともあり得る。ああ、もう二分半を切った。


 俺は焦った。何が何だか判らないからだ。確か部屋で普通に就寝して起きたらこの部屋だった。ああ、考えが纏まらない。


 誰かの恨みを買ったのか?俺はいたって普通の営業マンで成績も普通だった。誰かに妬まれる理由は無い。


 痴情の縺れも全く身に覚えがない。二分を切った。


 監禁されているのだから「やらなければならないこと」は何かの謝罪の可能性が高いが心当たりが全くない。


「俺が何をやったと言うんだ」


 声に出してみたが何の反応もない。一分半を切った。


「おい、本当に心当たりがないんだ」


 やはり反応がない。壁や床を叩いてみたが隠し扉とかは見つからない。俺はいったいどうやってこの部屋に入れたんだ?一分を切ってしまった。


 同僚、上司、取引先、友人、過去の友人、誰もこんなことをする該当者が浮かばない。


 駄目だ、もう何も考えられない。三十秒を切った。


 なんだよ、俺が何をしたって言うんだ、何故こんな目に遭わされるんだ!こんなところで訳も分からず死ぬのか?


 


 俺は思考の中で白いカップの中から出た。三分経った、インスタント麺の完成だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20241白い部屋 綾野祐介 @yusuke_ayano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ