ワンセカンド

みかん箱

0s

今でも鮮明に覚えている。

あれは、君がまだ1歳の頃だった。お互いの親の仲が良く、俺と君は遊んでいた。


俺にしか見えなかったのだろうか。

突然、君が抱きしめていた熊のぬいぐるみは、君の触れている手から黒く染まっていった。


俺は怖くなって泣き出し、親を困らせた。

そのまま俺は親と家に帰り、泣き疲れて寝た。


その1ヶ月後、自分の親が通話をしながら泣いているのが見えた。


俺は心配で泣いているお母さんに近づいた。

言葉の知らない俺は「ンー?」としか言えなかったが、その思いはお母さんに伝わった。


しばらくすると泣き止んで俺に説明をした。


「楓ちゃんがね、覚えてないみたいなの、楓ちゃんのお母さんのことも、私のことも、そして、けいちゃんのことも。」


幼く、言葉も分からなかった俺にとっては、

分かるはずはなかった。けど、俺は泣いた。


お母さんの悲しそうな姿。普段元気に呼んでくれるあだ名のけいちゃんが、心全体に響いた。


あの頃にはもう、俺は体に絶望を覚えた。


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