第4話
エージェント型メガネ置き場たちが目を凝らして、拳銃で
「くっ……」
そんな状態を横目に、メガネ姿の
「痛い目に合いたくなかったら、投降して。そうすれば、これまでのことを大目に見て、あなたの命までは取らないわ。まあ……これから数十年は、牢屋の中で鼻メガネを掛けて過ごしてもらうことになると思うけれど……きっと、いつかは外に出てこれるわ」
「へっ! 冗談じゃねーよ! そんなことになるくらいなら、死んだほうがマシだぜ!」
強情な態度の泪。眼子は小さなため息と共に、左右に首を振る。
「じゃあ、仕方ないわね」
そして、発砲の合図を待っているエージェントたちに向けて…………余っていた信玄餅のキナ粉や黒蜜をぶちまけた。
「逃げるわよ!」
「なっ⁉」
状況が皆目見当がつかずに目を白黒させている泪の手を引き、工場内を一目散に逃げ出す。
背後から、エージェントたちによる銃撃が開始される。しかし、キナ粉がメガネに張り付いた者たちの
「この工場には、関係者しか知らないもう一つの出口がある! その先にも、逃走用の車を用意しておいたわ!」
「オ、オマエ……」
そして愚かなテロリストたちは、脇目もふらずにエージェントたちから逃げ続けた。
しかし……。
「危ないっ!」
「おい⁉」
目的地となる二つ目の出口まで目前、というところで。
追跡者の放った弾丸が、泪をかばった眼子の左胸を射止めた。
「わ、私は、ここまでみたいね……。あなたは、私を置いて……逃げて……」
息も切れ切れで喋っている。
「な、何言ってんだよ! ここまで来ておいて!」
「いいから、早く、行きなさい……。じゃないと……追手が……」
その言葉の通り、さっき弾丸を放った者を含む無数のサングラスが目と鼻の先まで来ている。
「で、でも……」
それでも。
泪はなかなか決心がつかない。
眼子は、自分を騙していた裏切り者だったのに。自分を守ってくれたことに負い目を感じているのか、彼女を見捨てることが出来ない。
「な、なんでなんだよ⁉」
一刻の猶予もない状況でも、泪は叫ぶ。
「なんで、こんな事したんだよ⁉ オマエは、アタシの敵なんだろ⁉ だったら、最後まで敵でいればよかったじゃねーかよ⁉ アタシを助けるなんてバカなことしなければ、こんなことには……」
「げふっ! ……うふふ」
勢いよく血を吐き出す眼子。苦痛をこらえながら、目を細めて微笑む。
そして眼子は、泪の顔に震える手を伸ばした。彼女のその手には、泪がとっくに捨てたと思っていた、いつものレンズなしのメガネフレームがあった。
「な、何を……」
泪の顔……いや、泪という名のメガネ置き場に、そのメガネフレームが掛けられる。
「私……あなたのメガネ姿……そんなに、嫌いじゃなかった……。というか……結構、好きだったのよね……」
「っ⁉」
「ふふ、だから……言ったでしょう? 私……
そこまで言って、目をつむる眼子。目尻から、輝く涙がこぼれる。
「お、おい……おい、オマエ……」
それが、彼女の最期だった。
「……眼子! ……眼子ぉぉぉーっ!」
この後、生き残った泪もすぐに捕らえられ、二目と見られないような残虐な方法で処刑されたようだ。
結局、その哀れなメガネ置き場たちの計画は日の目を見ることはなく、失敗に終わったのだった。
当然の結果だ。メガネ置き場ごときが、本体ともいうべきメガネを目の敵にすること自体が、間違いだったのだから。
むしろ彼女たちの計画は裏目に出て、自らで証明してしまう羽目となった。メガネがどれだけ偉大であるかということ。そして、自分たちはそのメガネに支配され続けることだけが、唯一にして絶対の存在目的なのだということを。
実は……愚かなメガネ置き場たちの間では、あの日のテロリストたちが逃げ延びていて、彼女たちが中心となって人目を忍んでメガネ解放戦線が結成され、メガネとメガネ置き場の共存を目指している……などという
控え目に言っても、眉唾ものだ。
愚かで、無価値で、代替可能なメガネ置き場たちは、何も考えずにただメガネ世界の
メガネを
ただ、メガネを崇拝すればいいのだ。
そうだ。
メガネを、崇拝するのだ。
メガネを崇拝せよ。メガネを崇拝せよ。崇拝せ…………ん?
バ、バカな⁉
貴様らは、あの日死んだはずではっ⁉ な、なぜ生きて…………
ガシャン(メガネが床に落ち、レンズが割れる音)
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