夜が明ける前に

シン

 私は三分以内にやらなければならない事があった。


 ここを出て行く。


 三分もいらないかも。


 今すぐ出て行く。


 その為に長い時間を掛けて準備してきた。


 人生のすべてが準備だった。

 

 ここに留まってからは数か月だが、それも今この時の為だ。


 生まれてから、今までずっと。


 ずっと準備してきた。


 思い返せば、長い様で短い一生だった。


 懸命に生きてきた。


 地を這い、泥にまみれて。


 食べる事が出来る物はなんでも食べた。


 必要なら何処へでも行った。


 殺されそうになりながら。


 そうやって生きてきた。


 そろそろ報われる時だ。


 ここを出ていく為に生きてきた。


 それがもうすぐ果たされる。


 ここを出て、それからどうしよう?


 どうしよう?


 直ぐには思いつかない。


 …………。


 難しい。




 夜が明けようとしている。


 明るくなるまでに出て行く。


 そう決めていた。




 ここを出て、それから……。


 それから……。


 そうだ。

 

 花を見たい。


 色んな花を見て回るのだ。


 白い花。


 黄色い花。


 きっと楽しいだろう。


 今まで見て来た花とはきっと見え方が違う。


 もっとずっと綺麗に見える筈だ。


 動き回れなかった分、いろんなところに行こう。


 いろんな景色を見るのだ。


 その後は?


 恋人探しか?


 想像出来ない。


 まあ、それはいいか。


 そして、どうしよう?


 考えていない。


 考えてもしかたがない。


 きっと直ぐに死んでしまう。


 わかっていた。


 でも、いいか。


 ここにじっとしている訳にはいかない。




 ああ、夜が明ける。


 日が昇って来た。


 明るくなって来た。




 はやく。


 はやく。


 はやく。




 私は、全身に力を入れる。


 私は、私を拘束していたものを脱ぐ。


 私は、私の手足を伸ばす。


 全身を広げる。


 もうすぐだ。




 まだか?


 まだか?




 準備が整った。


 もうすぐ出発する。


 私は飛んでいく。


 飛べる。


 本能でわかる。


 私には出来る。




 私は飛び立った。


 空へ向かって。


 明るい方へ。


 羽を羽ばたかせて。


 好きなところに行く。


 行ける。


 もう振り返らない。


 前に進む。


 きっと未来は明るい。








 わたしは旅立った。


 鮮やかな羽を羽ばたかせて。








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夜が明ける前に シン @01sin

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