夜が明ける前に
シン
★
私は三分以内にやらなければならない事があった。
ここを出て行く。
三分もいらないかも。
今すぐ出て行く。
その為に長い時間を掛けて準備してきた。
人生のすべてが準備だった。
ここに留まってからは数か月だが、それも今この時の為だ。
生まれてから、今までずっと。
ずっと準備してきた。
思い返せば、長い様で短い一生だった。
懸命に生きてきた。
地を這い、泥にまみれて。
食べる事が出来る物はなんでも食べた。
必要なら何処へでも行った。
殺されそうになりながら。
そうやって生きてきた。
そろそろ報われる時だ。
ここを出ていく為に生きてきた。
それがもうすぐ果たされる。
ここを出て、それからどうしよう?
どうしよう?
直ぐには思いつかない。
…………。
難しい。
夜が明けようとしている。
明るくなるまでに出て行く。
そう決めていた。
ここを出て、それから……。
それから……。
そうだ。
花を見たい。
色んな花を見て回るのだ。
白い花。
黄色い花。
きっと楽しいだろう。
今まで見て来た花とはきっと見え方が違う。
もっとずっと綺麗に見える筈だ。
動き回れなかった分、いろんなところに行こう。
いろんな景色を見るのだ。
その後は?
恋人探しか?
想像出来ない。
まあ、それはいいか。
そして、どうしよう?
考えていない。
考えてもしかたがない。
きっと直ぐに死んでしまう。
わかっていた。
でも、いいか。
ここにじっとしている訳にはいかない。
ああ、夜が明ける。
日が昇って来た。
明るくなって来た。
はやく。
はやく。
はやく。
私は、全身に力を入れる。
私は、私を拘束していたものを脱ぐ。
私は、私の手足を伸ばす。
全身を広げる。
もうすぐだ。
まだか?
まだか?
準備が整った。
もうすぐ出発する。
私は飛んでいく。
飛べる。
本能でわかる。
私には出来る。
私は飛び立った。
空へ向かって。
明るい方へ。
羽を羽ばたかせて。
好きなところに行く。
行ける。
もう振り返らない。
前に進む。
きっと未来は明るい。
鮮やかな羽を羽ばたかせて。
夜が明ける前に シン @01sin
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