精霊 vs サッちゃん
不労つぴ
精霊 vs サッちゃん
突然だが、皆様は「サッちゃん」をご存知だろうか。
そう、『サッちゃんはねサチコっていうんだホントはね』のあのサッちゃんである。
あの童謡は、3番目までしか存在しないが、実は隠された4番目があるなどという都市伝説がある。
詳しい内容は忘れたが、その4番目を知ると、寝る前にバナナを枕元に置かなければならないとか、その歌詞を何時間以内に何人に伝えるなどということをしなければ、呪い殺されるという大変傍迷惑な都市伝説だったような気がする。
今ではあまり聞かなくなったが、少し前のチェーンメールのようなものだ。
当時小学校低学年くらいだった私は、その隠された4番目を学校の本かテレビで聞いたような覚えがある。
そのときの私はビビリのくせに、趣味が怖い話集めという中々面倒くさい小学生だったので、その話を聞いた時、心底震え上がったのは今でも覚えている。
それ以降の私は、いつ『サッちゃん』に呪い殺されるかで頭がいっぱいだった。
私はバナナを夜寝る前に置いて寝ていたのだが、母に
「食材の無駄だからやめなさい」
と叱られ、禁止されてしまった。
当時の私は、
「お母さんは僕がサッちゃんに呪われてもいいの!?」
などと意味の分からないことを喚いていたが、今思うと母の対応は当然だ。
どうにか対策ができないものかと考えていた私は、毎日のように入り浸っていた図書室で、ある本を発見した。
それが『
その魔導書風の外装が施された本は何故か小学校の図書室に置かれていた。
その本をペラペラとめくり終えた後、私は
「これだ!」
と何故か勝利を確信していた。
その本には小学生が読むにしては長ったらしい、精霊の召喚呪文が書かれており、私はサッちゃんに精霊をぶつけて戦わせようと画策していたのだった。
ちなみに、その本に書かれていた呪文は春の精霊を呼び出すものであり、とても戦闘用ではなかったし、その時の季節は冬だった。
そもそも、その『精霊図鑑(仮)』はおそらく小学生向けに作られたものであり、もちろん実際に召喚など出来るはずはなかった。
そんなことはつゆ知らず、その日から私は休み時間や昼休みを使って呪文の暗記を始めた。
傍から見なくても完全に変人である。
いつサッちゃんに襲われるか分からないのと、本の貸出期間が2週間であったためである。
今思えば、その本を自費で買うなり、メモに書き写すなりすればよかったと思うが、そんなことは小学生の私には出来るはずもなく。
休み時間、ぶつぶつと暗唱の練習をしている私に友人が「つぴちゃん。何をやっているの?」と聞いてきたことがある。
そこで私は「呪文覚えてるの!」とバカ正直に話してしまった。
友人は「なんでそんなことをしているの?」と聞いてきた。
それに私は「サッちゃんに呪われないため!」とまたしてもバカ正直に答えた。
その時、友人は何を言っているのか分からないといった感じの冷めた目で私を見つめたのを覚えている。
他数人の友人が私に同じような質問をしてきたが、私はすべて同じように返した。
――皆同じように冷めた目で私を見ていた。
結果として、サッちゃんは襲ってくることはなく、精霊も召喚できなかった。
呪文は覚えることには成功したものの、数日後にはすっかり呪いのことともども全て忘れて友達と遊び回っていたのだ。
あの時から少しは成長したと信じたいが、小学生時より酷くはないものの未だに奇行は多く、もしかしてあまり変わっていないのではないかと思い、定期的に悲しくなる。
精霊 vs サッちゃん 不労つぴ @huroutsupi666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
僕ってこんな人です/不労つぴ
★18 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます