マッチョ刑部の事件簿: 爆乳バッファローからの挑戦状
RichardRoe@書籍化&企画進行中
第1話 爆乳バッファローからの犯行予告@サイバー平安時代
お前ら公安四課には三分以内にやらなければならないことがあった
1:名無しの詠人不知 *********
それももう終わりだ
人質を乗せた牛車は、百頭の中のランダムな一頭のみだ
無事に解放してほしくば、要求に従え
◇◇◇
サイバー平安時代。
――
すなわち、この時代における捜査令状のことである(※刑事訴訟法第189条1項参照)。
「牛車の開発者、ニコル=ジョセ・キョニューを逮捕せよ……か」
別当宣を読むや否や、
こういった仕事は陰陽師に丸投げしたいところである。正直なところ、手に余る話で合った。
サイバー平安時代の技術発展はすさまじい。
かの摂政、聖徳太子の推し進めた大化の改新により、インターネット・プロトコル・スイート(TCP/IP)が標準化され、TCP/IPを採用したネットワーク群を世界規模で相互接続するインターネットという概念が提唱された。
「日出處天子致書日沒處天子無恙云云(読み下し:日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや。)」
から始まり、後のIETFのRFC技術仕様文書に通じる、十七条の憲法を制定した。
そう、聖徳太子はオープンソース開発者であり、日本国開発コミュニティの伝説のモデレータなのだった。
しかし――。
「どうして牛車が暴走するんスか、マッチョ先輩! 遣唐使が持ち込んでくれた自動運転技術のおかげで、ヒトが故意に牛車を操ることはできないはずっスよ!」
後輩の
彼女は同じ公安四課のメンバーである。
彼女も俺と同じく、なぜ牛が暴走したのかを突き止めることに苦慮していた。
ご存じのとおり、公安四課は資料管理を主としている。そのため、
「確かにウチも、牛車のクラッキングに挑戦したことはあるっスよ! でも外部からの通信手段がない限り牛車を操ることは不可能っス! 有線接続? 論外っス! 走ってる牛車にLANケーブルやらUSBケーブルを刺しにいくなんて正気の沙汰じゃないっス」
「ああ、人間が牛車を操ることは不可能だ。
清少納言がぶーたれて、
そう。
当たり前のことだが、牛は速いし強い。
牛の体重は1トンにもおよび、速さは時速50km程度にも至る。
食べ物は草。野生の牛は1000頭もの群れを作り、その大軍はライオン族の亜人さえも轢き殺す。
ヒト族である
――鍛えていなければの話だが。
「……ニコル=ジョセ・キョニューでしたっけ。そいつ、ウチを超えるエンジニアなんスか?」
「ああ、キョニュー嬢は、世界で初めて牛を車にするプロトコルの開発に成功したからな」
最近のセンセーショナルな発見の一つである。
一部の界隈で有名なエンジニア、『爆乳バッファロー』が、ついに牛を車にすることに成功した。
世界的にも珍しい快挙であると言えよう。
生き物にプログラミングするのを成功させたのは、我が国日本では聖徳太子しか例がない。
鳩で情報をやり取りする伝書鳩プロトコル(RFC1149)により、世界に情報が広がった。だからあの時代を飛鳥時代(≒飛ぶ鳥の時代)と習うし、あらゆる世界の情報を同時に耳に拾っていた聖徳太子を「同時に十人の話を聞き分けた」と言うのだ。歴史は繋がっている。日本書紀にもそう書いてある。
「でも、『爆乳バッファロー』ことキョニュー嬢は、そんな小さな生き物じゃなくて、牛ぐらいに大きな生き物にプログラミングできた。その凄さが分かるだろう?」
「……そっスね。彼女の功績なくては、平安京のモータリゼーションも進まなかったはずっスから」
普通に考えれば、『爆乳バッファロー』ことキョニュー嬢は、そのままのうのうと暮らしていれば、楽隠居ができたはずである。
牛車利権だけでひと財産。
あとはゆったり老後を過ごせばよかったはずなのに。
「いったいなぜ、『爆乳バッファロー』ことニコル=ジョセ・キョニュー嬢は、天皇陛下を誘拐したのだ……!」
壁に一尺ほどの大穴が開いたが、事態はそれどころではなかった。
◇◇◇
お前ら公安四課には三分以内にやらなければならないことがあった
2:名無しの詠人不知 *********
インターネット管理衛星『総国分寺』のコア衛星『東大寺』
これの起動キーとなっているのは、美須麻流之珠だと聞いている
その宝珠を速やかに譲渡せよ
◇◇◇
「
牛車連続クラックテロ対策ならび天皇誘拐作戦本部にて。
参議左大弁従四位上兼行左近衛中将の大理卿がそう言い放った時、
だがそれより先に清少納言の方が詰め寄るのが早かった。
「そんな! 百頭っスよ! 一頭や二頭ならまだしも……百頭なんて!」
「"
百人相手でも片手一本で渡り合える、そう豪語していた時代もある。
だがそれは言葉の綾というものだ。流石の俺も、片手では厳しい。
「無茶苦茶っス! 考え直してほしいっス! 暴走する猛牛相手では、百頭相手ともなると力負けもあり得るっス! そうなれば先輩は……!」
「麿にどうせいと言うのじゃ!」
大理卿の目は血走っていた。
「手をこまねいておっては何にもならん! おうとも、今でこそ牛車の群れは、道路を規則正しく回っておる! じゃがな! 犯人の気まぐれで、全てを破壊しつくす牛の群れになってもおかしゅうないのじゃぞ!」
「しかし……!」
「ああ、おいたわしや、天皇陛下……! ずっと牛車に閉じこもっている陛下の御心、いかばかりか……!」
作戦本部にわざとらしく響く大理卿の声。
天皇陛下への忠誠の言葉だが、その実は藤原家へのアピールに過ぎない。既に朝廷の政治は、摂関政治を引いている藤原一族のものだ。
今の若い天皇が死んでも、次の天皇が後を継ぐ。
そんなことは分かりきっているというのに。
いっそ白々しいほどに天皇陛下を偲ぶ言葉をさえずる大理卿をよそに、清少納言は食って掛かった。
「せめて、せめて、陛下がお籠りになっている牛車さえ特定できないんスか!? 流石の先輩も、百頭相手はダメっス! どこか一頭だけに絞れたら、あるいは……!」
「ふん、簡単に言うでないわ! 人工衛星『法隆寺』からの上空映像は見たであろう! この豆粒のような画像からどれを特定すると申しておるのじゃ!?」
プロジェクターに投影された映像を指さして、大理卿は叫んだ。
確かにその意見は正しい。
百頭が規則正しく、車懸りの陣でも作るがごとく、次から次へと循環している。しかし百頭の総体そのものは、一つの生き物のようにきちんと規律を守ってひと固まりのまま進んでいる。
流動的だが、はぐれる個体がない。
こうも完璧に動かれてしまっては、どこから手を付けてよいかお手上げである。
「……特定ができるなら、蹴鞠班に牛を狙撃させておったわ!」
大理卿の絞り出すような声。
映像は、牛車の複雑怪奇な動きをリアルタイムで共有し続けていた。
万が一蹴鞠に失敗して天皇陛下に命中してしまったら、目も当てられないことになる。
「こうも動かれては、個別に特定ができるはずがなかろう! じゃから、百頭を一気に止める筋力が必要なのじゃ! 筋肉ですべてを解決する以外なかろう!」
「……違うっス、絶対ヒントがあるはずっス、絶対ヒントがあるはずなのに……!」
清少納言の声は、ほぼ半泣きのものになっていた。
「じゃないと、先輩が……!」
百頭の暴走する
普通、ヒトはバッファローに勝つことができないのだ。
そう、鍛えていなければ。
対策本部は、深い沈黙に包まれていた。
―――――――――
続く……のか?
続編用のプロット:
・爆乳バッファローと天皇陛下の会話
・相撲は神事
・相撲の構えは八卦よい、大仏の構えはだいぶつよい
・バッファローとバッファオーバーフロー
2024/03/03:修正しました(起動キーを
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