新型テロリスト・ミラー五郎

狐付き

新型テロリスト・ミラー五郎のルーティーン

 ミラー五郎のテロ実行前には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは日本を震撼させた『死の予告デス・カウントダウン』だ。なめてかかると死ぬ。

 彼が最も注目された新宿駅地獄変以降、彼のテロ行為には世間が戦々恐々としている。


 死の予告以外にも、彼には決まった行動がある。

 まずは、イベント的なもの────例えるならば、新宿駅地獄変のときは新宿駅前での総理の演説だった────が開始される五日前に、『中止しないと地獄を見ることになる』といった内容の手紙が送られて来て、それを無視すると二日後にテロが実行される。

 その一週間をミラー五郎ウィークと呼び、警察などが慌しくなる。


 そして当日の死の予告だ。時間は不明。ただ三分前……凡そ三分~二分三十秒ほどの間に突然カウントダウンが表示される。ただ一度残り一分くらいから始まったこともあったのだが、三分を越えたことはない。こだわりなのだろう。


 世の中にはそれを楽しみにしている連中もいるが、テロ行為であり、たくさんのひとが亡くなっているのだ。ただの愉快犯で片付けられるものではない。

 特に若い男に多い。しかしそういった連中は巻き込まれて死ぬ。一体なにがしたかったのか。


 そんなミラー五郎からまたテロ予告だ。今度は渋谷のスクランブル交差点が標的になっている。あんなところでテロを起こされたらたまったものではない。特に最近は世界中からこのスクランブル交差点を体験しようとやってくる外国人観光客が増えているのだ。


 だからといって基本我が国はテロに屈したりしない。テロ予告が来てからは周囲の警察を増やし、不審な人物がなにかおかしなことをしないか監視しているのだ。


 とはいえ、新宿地獄変は酷かった。一体いつの間にあんなことを行ったのか、未だに不明だ。ミラー五郎は魔法が使えるのではないかという胡散臭い記事を鵜呑みにしてしまいそうになる。


 だからとはいえ、警戒は必要だ。ここ一週間、昼夜を問わず空にはクアッドコプターが監視し、地上も警察が数千人単位で動員されている。流石になにもできないだろう。




 そんな渋谷の午後七時。一番賑わう時間帯だ。突如大型ビジョンにカウントダウンが始まる。

 警察が出動し、ひとの流れを制御しようとする。だが止まらない。


 カウントがゼロになった瞬間、空から大量のチューリップが降り注ぐ。鉢付きで。

 上空にはヘリなどない。だが交差点を埋め尽くすほどの量の鉢付きチューリップは人々の頭へ落下し、阿鼻叫喚だ。

 またしても警察官はミラー五郎のテロに屈してしまったのだ。

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新型テロリスト・ミラー五郎 狐付き @kitsunetsuki

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