第2話 動機①

 東京都の隣接県である千波県。


 その中心地である千波市中央区に居住する25歳、フリーター男性、宇野間音瑠うのまねる



 そんな将来性も夢も希望もない俺が、ある切っ掛けで、現状の鬱屈した生活を打破するための画期的なアイデアを思いつき、それを実行に移すことになった。


……のだが、まずはその経過を説明しようと思う。




 それはある日、俺が夜勤のバイトを終えて家に帰り着いたときに始まる。



「くっそ!あれだけ苦労して働いても、これっぽっちかよ!」


 そんな独り言が、1DKの室内に静かに響いた。



 3年前に大学を卒業したまでは良いが、ろくな就職先が無く、それでもなんとか就職を決めて働いてみたところ、パワハラ気質とモラハラ気質を兼ね備えた上司から多種多様の嫌がらせを受けて、結局3ヶ月で退社。


 そこからアルバイトを点々としながら、どうにか食つないできたが、現在スマホの画面に表示された先月分の給与明細と貯金残高を見る限り、いかにもそこに明るい未来はなさそうに思えた。



 現在のアルバイトはコンビニの深夜時間帯の店員であり、ワンオペで店を回している。


 あまり客が来ないので責任感も持たずに適当にこなしていたが、先日、どうせ待っていても客なんか来ないだろうと考えて、店の照明を全て消して出入口も施錠し、奥の事務室で熟睡していたところ、客からの苦情でそれがオーナー店長にバレてしまい、しかも防犯カメラ映像から、その他の細かい悪事も全てバレて、厳しく叱られてしまった。


 しかしそれでも俺の他にワンオペ深夜勤務などという労基案件になりそうなバイトをしてやろうという後任は見つからないらしく、すぐには俺のことをクビにはできないようだ。


 とはいえ、その日からオーナー店長の俺を見る目が、まるでゴミを見るような蔑んだものになってしまい、最近ではその息苦しさに耐えかね、後任が現れる前に自ら転職しようと考えている。


 その際は、コンビニの店内をめちゃくちゃにしてからバックレてやるぞ。クソが。



 そんな精神的にも肉体的にも苦労している俺なのに、だ。

 それに見合った収入が得られているとは到底思えない。


 まあ、それだけだったら別に良いのだが(良くはないが)、許せないのは俺がこれだけ苦労しているのに、世の中には楽なことをして金を稼いでいる奴らがたくさんいるという事実だ。

 特に思うのは、夜勤明けの俺が、何をするでもなく思わず何時間も見続けてしまう動画配信サイト「アイチューブ」。


 そこに動画を配信している、いわゆる「アイチューバー」たちは、好き勝手なことをやって収入を得ているのだ。

 まあ、生活できるほど稼いでいるアイチューバーは一握りしかいないとも聞くが。



 実際のところ、実は俺も「夜明けの鴉(からす)」という、中二病臭い名(「夜勤明けの社畜」も考えたけど、それよりかはマシだろ?)でアイチューバーとしての活動をしていて、世の中の不満や怒りをぶち撒けるというフリートークスタイルで、自身のストレス解消をしつつ社会貢献にもなる動画を投稿をしている身なのだが、チャンネルの登録者はゼロ、視聴回数も一桁に留まる等、収益化すら目標に据えられない有り様なのだ。



 そんな中で、それなりの収益を上げているアイチューバーは、さぞかし立派なことをやっているかといえば、決してそうは思えない。


 仲間内でふざけ合って悪ノリしているようにしか思えないような動画ばかりを投稿している者も多い。



 まあ、それだけだったら別に良いのだが(良くはないのだが)、その中でも最近気に障るのが、一部で話題となっている「私人逮捕系アイチューバー」などという、世の中の犯罪者を探してそれを逮捕するという、正義ヅラした連中である。


 奴らは視聴回数を稼ぐだけではなく、一部からは「正義の実現者」のように信望され、畏敬の念を集めたりしてるのだ。



「くっ……ふざけるなよ……!」


 お前らは正義のためじゃなくて、金稼ぎのためにやってるんだろうが!


 思わず口に出た憤りは、やはり虚しく部屋に響くだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る