第19話 戦争
そして、数日後、遂に戦争が始まった。そして私は有言実行通りにご主人様と一緒に戦場へと行くことになった。
そして私はまず、馬によって、ご主人様の隣に運ばれる。私の前にいるのはメイリスだ。
私の拘束されている手は皆に見られている。その時点で正直恥ずかしい。だって、拘束されている私がみんなの前に立つのも変な話だ。
だって、私はこの中で一番弱いのだから。
というより、何なのこの羞恥プレイ。
これ戦場で、美術館とかじゃないんだから。
てか、美術館って、自分で言っておりてなんだけど、どんな美術館なの……
「それでは、俺から言う前に、ニナに言ってもらおう。ニナの言葉は俺の声だと思って受け止めてくれ」
それ、私への負担が大きいから。
私武人なんかじゃないからさ。戦いの前の士気の挙げ方とか全く知らないよ。
「さあ」
私へと注目が集まる。
それと同時に、メイリスは馬を降りた。
ねえ、私を一人にしないで。
もうどうでもいいや。しけた空気になったらご主人様のせいだし、適当に言おう。
「えっと、今から戦うとのことで、誰も死なないで、全員無事に戻ってくること。さもないと私が許しません」
後はどういえばいいんだろう。
言葉使いも変になった気がする。
「そして、私は戦争のことはよく知りません。私の隣にいるご主人様しか武人は知りません。だから、なんで私に言わせてるんだろうっていうのが、今の私の正直な気持ちです。私は正直、この人のことをくずだと思ってます。世界で一番くずだと思ってます。何より見えください。私の両の手足を拘束しながら、戦場に送り出す人が善人な訳がありますか?
でも、私は同様にこの人の戦闘の腕はいいと思ってます。実際に目の前で見たことがあるので。
さて、ここからが本題です。私はご主人様が死んでなお、みんなが勝利するというのが、個人的な一番の勝利条件です。だから皆さん、ご主人様を守らず、自分自身を守ってください」
結局変な演説いなった。というか、ご主人様ん大して持っている不満をぶちまけただけだ。
でも、気持ちがいい。
私の正直な気持ちを吐くのって気持ちがいいんだな。
「それと少なくとも私は戦争に負けた場合、忌み物になり、強姦されます。それが今私が一番恐れてることであり、アナたたちに、一番阻止してほしい未来です。だから、お願いします。勝ってください、そして、ご主人様は戦死してください」
これでひとまず言いたいことはまとまって言えただろう。
「みんな、こいつが言ったことを聞いたか、俺に戦死して欲しいんだそうだ。まあ、今までのことを考えて、俺に生きてほしいなんて言うと思ってはいない。ただ、俺はこいつのことが好きだ。好きだからこそ、拘束している。ただ、そんな中で、愛を注ぎたいだけだ。だから俺は無事に帰ってくる。そして、お前たちは俺を死なせないように頑張ってくれ。……以上だ。分かったな!!」
「うおおおおおお!!!!!!」
なんでこれで大歓声なの?
本当に意味が分からない。もしかして、ここには変態しかいない?
いえ、きっとそうよ。
だって、そうじゃなかったら、なぜこんな変な号令で、士気が上昇するのか分からないんだもん。
しかもこの人、やっぱり私に嫌われてることは分かってるのね。
まあ、いつも反抗的な態度が好きって言ってたからな。
そう思ったら最近ご主人様に反抗しているのが、ご主人様の望みみたいで少しムカつくなあ。
そして私たちの軍は戦場に向かって行く。
手足拘束されている私は、戦場で足手纏いだ。だから基本的に後衛待機だ。
メイリスの背中に密着する形で体を固定しているので、メイリスが落ちない限り、落馬する可能性はない。
戦場ではみんなどんどんと敵にぶつかっていく。
「ニナちゃんを守るんだああああああ」
「うおおお、ここから先には行かせない」
「ニナちゃんに手一本触れさせない」
なんで、私が指揮を引き立たせてるの?
これ、私が本当に戦いのキーカードになってるの?
本当に分からない。
だが、動機は置いとき、実際に士気は上がり、敵がどったばったと死んでいく。
前衛をご主人様が率いているからか、どんどんと攻め込んでいる。
「はあ!」
私の横に迫った槍をメイリスが受け止め、そもまま槍を付き返す。
やっぱりこれ、私に死の危険がない?
これでよく、私を守るって言ったよね、ご主人様。
だが、その瞬間、
「ニナ様惚れが守ります」
「いえ、俺が」
「俺が」
いつの間にか、護衛集団が出来上がってる。
これ、もはや、私が討たれたらその瞬間に全滅するなと思った。
戦争のことはよくは分からないが、今の状況は優勢じゃないかと思う。
なぜか変態共の士気が上がってるし。
だが、その瞬間大量の弓矢が飛んでくる。
「これは……」
メイリスが呟く。
「敢えて攻めさせられた?」
そのせいで、回り込まれ、死地となっている。
遊星だと思ったらいきなり劣勢?
しかもどんどんと、兵がやられて行ってるし。
これ非常にまずいんじゃない?
「ニナ、今からものすごく動くわ、自身の身は自分で守って、あと、舌をかまないように」
ええ、メイリス?
そう口にだそうとした瞬間、馬が動き出す。
「ニナ様を連れて突破する。着いてきて」
「はっ!!!」
大勢の人たちが続いていく。
今のメイリスの狙いはあの弓矢兵を殲滅させるつもりか?
メイリス率いる兵は、どんどんと進んでいき、敵兵を殺していく。
「うぅ」
血がとんできた。
地味にきつい。しかも腕で拭き取れないし。
「ニナ、もう少し我慢して」
そう言われても、馬が早いし、矢は飛んでくるしで、正直しんどい。
乗ってるだけではない。
飛んでくるものにおびえないといけないのが、しんどい。
風圧もしんどい。すべてがしんどい。
本当にご主人様恨む。
確かに、私は助けになっているんだろうけども、でも私個人のしんどさは何も加味してくれていない。
まあでも、こんなの今に始まったことじゃない。今までもこんなことは幾度もあったのだ。
結局どんなにつらいと訴えても何も動き出さない、それがご主人様なのだから。
「はあ!!」
あまりもの血しぶきの量に、目を思わずつぶる。すると、瞼の上に血が飛び散った感じがした。
ああ、これ今、周りがどうなっているのかも全く分からない、文字通りの地獄じゃん。
「メイリス、目を拭きたい」
「ごめん。もう少し我慢して」
もう少しってあとどれくらいなの?
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
怖い怖い気持ち悪い怖い気持ち悪い怖い。
ああ、もうわかんない。
痛い!
明らかに、肩に矢が刺さった。
あの時と同じ。だけど今は目が使えない。今私の方からどれくらいの血が出てるのか、一切合切分からないのが辛い。
「ニナ、ごめん」
ごめんか。でも、その言葉で痛みが和らぐわけでは無い。
ああ、痛い。
そんな私を置いてきぼりにするように、耳から入る情報は全て地獄だ。
ああ、暇こそが地獄だと思っていたが、違う。
戦場こそが真の地獄だ。
逃れられない地獄。
誰か、私を戦場から離脱させてと、願ってしまう。
そうこうしている間にもまた、どこか分からないけど、弓矢が刺さった。
あ、これダメかも。頭が回らなくなってきた。
嘘でしょ?
私、まさかこんなところで死ぬの?
嫌だ、死にたくない。
そのまま意識を失った。
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