第18話 磔拘束

「なあニナ」


 朝、隣に寝ていたご主人様が話しかけてきた。


「今度戦争が起きるだろう。前にも話した通り、その時に馬上の天使としてついて行ってくれないか?」

「はあ?」


 その発言には心底驚いた。


「拘束は?」

「外さない」


 ですよね。

 この後ろ手についてる拘束。これがついたまま戦場に出るって、死ねと言ってるようなものだよね。


「絶対にいや」

「いや、これはお願いじゃない。命令だ。もしお前が来てくれたら俺が強くなる。つまり戦争に勝てる」


 馬鹿らしい。


「別に私は戦争に勝って欲しいとは思っていませんよ」

「拘束が外れないからか?」

「勿論です」

「戦争に負けたら忌み物にされるぞ」

「それはそうですね」

「お前は戦争に勝つしか生きる道はないんだからな」


 やっぱりこの人はこの人だ。

 私をどうしても観賞用生物にしたいのか。


「うぅ」


 手で拘束から抜けようとガチャガチャと音を鳴らす。


「無駄だ、そのようなものでは拘束からは逃れられん」


 結局地獄なのよね。


 何をやっても同じ結末。

 私には地獄しかない。

 いつの日になっても。


「私は、ご主人様のことが嫌いです」

「知ってる。こんな目に合わせた人を好きになるわけがないだろう。だが、俺はお前のことが好きだ」

「気色悪い」


 本当に行かれてるのよ。この人は。


「さて、戦争の時は俺がお前を守ってやる。どんな手を使ってもな」

「もしかして……あの効果を狙ってます?」


 それは、絶対説明の時に男女が恋をする高価だ。


「それも少しはある」

「正気ですか?」


 まさかそんなものに頼る人とは思っていなかった。

 元から好感度なんて底中の底だったが、もっと下がりそうだ・


「最低です」

「後は、俺の強さを見せるためだ」

「それは見せてませんでしたか?」

「確かに見せたな。だが、それとこれは違う。本当の戦場で味わってもらう」


 いやいや、戦場って、私は軽く死にかけたんですけど。

 なのに、必要もないのにつれていく?

 おかしいでしょ。


「とりあえず戦争は三日後に始めると予測されている。その時は頼んだぞ」

「分かりました」


 嫌だ。行きたくない。

 死にたくない。



★★★★★


「それでどうして私はこうなってるの」


 今の私は壁にしっかりと拘束されている。疑問しかない。なんで私は今壁に貼り付けにされているのだろうか。


「勿論お前を愛でたいからだ」

「やっぱり変態ですね」

「はは、そう言われるのは誉め言葉だ」


 やっぱり反吐が出るわね。


「だが、やっぱり思うのはさ、お前は最高だという事だ」

「最低」


 なんだか、この国に来てさらにご主人様の変態性に磨きがかかった気がする。

 本当に最低だ。最低としか言いようがない。


 しかし、この体勢は中々きつい。私は十字架の様な物に、拘束されているのだが。足も手も宙釣りに拘束され、痛みが生じるのだ。この痛みはまさにあの時に縄で拘束されたのに似ている。

 ああ、この人は最低だ。この人はくず中のくずだ。

 そうとしか言いようのないくず。それがご主人様なのだ。


 そんなご主人様は今も、私をいやらしい目で見ながら執務をしている。

 この人は最低だという言葉しか湧いてこない。

 もうこの人は嫌いだと言っても誰も文句は言わないだろう。


「あのご主人様、私の精神的健康面は考えていてくれてるんですか?」

「勿論だ。お前は俺の大事なものだからな」


 ああ、もうこの人に期待するわけには行かないな。


「もう、貴方に期待するのはやめました」

「ああ、それがいいさ。そんな無駄なことは無いのだから」


 自分でも自分がくずという事はわかtぅてうのか。

 しかし、足を延ばしたりもできないから、後ろ手で縛られてる時よりも退屈指数も大きい。


「暇だ」

「ならば、さっさと戦争が起きることを期待するんだな」

「それも嫌ですよ」


 どっちみち地獄。それが私に待ち受ける運命だ。


「はあ」


 寝るしかないかと思い、瞳を閉じようとする。

 だあ、眠れそうにもない。睡眠時間はたっぷりとってあるのだから。


「ああ、もう!」

「俺はイラついているお前も可愛いと思うぞ」

「うるさいっです!!」

「はは」


 本当にこの人、この拘束が無かったら、一発、いえ、二発ぶんなぐってあげたい。


「あれ?」


 寝てる?

 もしかして、仕事疲れで寝てる?


 これはチャンスって思ったけど、私今手足の一本も動かせないんだった。

 ああ、もうこの拘束が憎い。私を自由にさせてよ。


 これさえなかったらいつもの仕返しができるのに。

 例えばそう、たとえ後ろ手拘束だったとしても、ちょっかいをかけることは可能。


 でも、これだとね。


 どうしよう。

 この状態から逃れたい。

 ていうか、むしろ退屈に名tぅちゃったし。


 そうだ、大声で起こしてみたらどう?

 そしたら、ご主人様に日々の恨みを晴らせるかも。


「わあああああああああああ」



 私は叫ぶ。ご主人様は起きる様子を見せない。声の大きさが足りないのかな?


「わあああああああああああああああああわあああああああああああああああああああ」


 うーん、起きない。


「うわあああああああああわああわあわわわああああああ」


 え? 全力の声を出したけど、起きない。

 どれだけこの人は疲れてるの?

 そう言えばだけど、この人は最近睡眠時間が足りないって言ってた。

 じゃあ、私は……

 ……って駄目、なんで情を持とうとしてるの?

 あくまでもこの人はくず野郎なんだから。


「はあ」


 それは置いといて、私は後どれくらいこのまま中刷りに去れたらいいんだろう。

 これも、ご主人様の趣味だから、ご主人様が寝た今、この状態を継続する意味なんてないんだよね。

 はあ、嫌だあ。

 痛い。


 結局、ご主人様が起きるまで3時間くらいそのまま拘束されたままだった。

 ほんとに何してくれてるのよ。


「今日は悪かったな、ニナ。本当はあんなに長時間にするつもりはなかったんだ。本当はもっと短時間にするつもりだったんだ」

「はあ」


 本当になぜ謝ってくる。むしろこっちが来杏くなるじゃない。


「まあ、そう言うことなら」


 そして私は何で受け入れちゃってるの……。


「ニナ」


 ご主人様が私を抱きしめる。


「本当に済まない」


 抵抗したいが、後ろ手に縛られてるせいで、うまく抵抗できない。


「離れたいか、だが、お前は離さない。俺の全部をかけてでも」

「なぜ、私にそんなに執着してるの?」

「お前を俺が愛でたいと思ったからだ」


 やっぱり変態ね。

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