立ち塞がる子猫

鳥頭さんぽ

第1話

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

 目の前にいる子猫、俺が出かけるのを邪魔する子猫を退けることだ。



 今日、俺は隣に住む幼馴染と遊ぶ約束をしていた。

 俺達のマイルールで待ち合わせ時間に遅れたら飯を奢ることになっている。

 ここ最近、遅刻して奢り続けている俺はこれ以上の出費を抑えなければならない。

 待ち合わせ場所は俺の家の外だ。

 既にドアの向こう側に幼馴染は来ているはずだが、三分以内にドアを開ければ遅刻じゃない。

 そう、ドアを開けさえすればいいんだ。

 玄関からドアまで二メートルもない。

 たったそれだけの距離を俺は進めない。

 子猫が立ちふさがり通せんぼしているからだ。


「おい、退けよ」

「みゃ」


 俺に言葉に反応して鳴くが退く気配はない。

 それどころか、後ろ足で立ち上がると威嚇するかのようにシャドウ猫パンチを始める。

 闘争本能剥き出しでやる気満々の子猫だった。


「おいおい、俺はお前と遊んでいる場合じゃないんだ。もう時間がないんだ」


 腕時計を見ると約束の時間まで二分を切っている。

 この子猫が俺の邪魔をするのは今回が初めてじゃない。

 というか、ここ最近遅刻続きなのはこいつのせいだ。

 横をすり抜けようとしたら当たり屋にようにぶつかって来て大声で鳴いてみんなを呼ぶ。

 状況から俺がいじめたと思われてみんなに怒られてその時遅刻した。

 強引に突破しようと跨いだら、こいつ、容赦なく俺の股間にジャンピング猫パンチを放ちやがった。

 猫パンチと甘く見るなよ。

 めっちゃ痛かった。

 悶絶するほどに。

 で、この時も遅刻した。

 この子猫は容赦ないのだ。

 やる時はやる子猫なのだ!

 一応断っておくと、こいつは俺と遊びたい訳じゃない。

 

「なあ、頼むよ。もう二分もないんだ。このままじゃ俺はまた奢ることになっちまう」


 俺が同情を誘うように話しかけるが、こいつには通じない。

 そう、こいつは俺が急いでいるのを知っているのだ。

 知っていて邪魔をするのだ。

 そうこうするうちに一分を切った。

 すると子猫が行動パターンを変えた。

 上半身を揺らし始めたのだ。

 そしてシャドー猫パンチ。


「お前はボスモンスターかよ、って、それ、デンプシー……って、どこで覚えんだよ!?」

 

 結局、今回も俺は遅刻になった。


 

『もう時間過ぎたけどまだあ?』


 幼馴染の声がドア越しに聞こえて来た。

 その声を聞いて子猫は勝ち誇った顔で道を開けた。

 俺が力無くドアを開けるとそこには満面の笑みを浮かべた幼馴染が立っていた。

 

「はい、また遅刻。今日もあんたの奢りだからね!」


 勝ち誇った顔の幼馴染に俺は文句を言う。

 

「卑怯だぞ」

「何が?」

「『何が』じゃない、猫を使って足止めしやがって」


 そう、この子猫は俺んちの猫じゃない。

 この幼馴染が飼っている猫なのだ。


「言ってることわかんないんだけど……って、よしよし」


 幼馴染は俺の後から出て来た子猫を抱き上げると頭を撫でる。


「昼ごはん代浮いたから、今晩は豪華にするね」

「みゃ!」


 俺は無駄だと思いつつ抗議する。


「あのさあ、遊ぶ約束は前もってしてくれないか?いきなり電話で『五分後に集合』て、酷くないか?」

「いいじゃない。いつも暇でしょ」

「酷い言われようだ」

「でも事実でしょ」

「……」


 不満を口にしながらも幼馴染の言うことを聞いてしまうのは惚れた弱み、なんだろうな。


 

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立ち塞がる子猫 鳥頭さんぽ @fumian

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