ミノタウロスの慟哭 ~どうして旧人類は滅びへ向かうことになったのか~

九十九 千尋

音声記録1 2024年3月1日


(心電図を思わせる音)


間歩是マブゼ博士、すごいです。世界が、変わりました。ああ、世界は変わったんです」


「何が変わったのか、聞かせてくれるかい?」(ボードの上の書類にペンを走らせる音)


「はい、博士。まず……ああ、ああ……」


「落ち着いて。一つずつ」


「すごく、煩わしいのです。私の口は一つしかない。一つの口で喋るには、この情報量は膨大過ぎます」(荒い呼吸の音)


「大丈夫。落ち着いて。深呼吸だ」


(深く息を吸い、そして息を吐く音)


「はい、博士……私の脳が、インターネットに繋がっているのが解ります。脳が直接、繋がっているのです。ああ、念じるだけで瞼の裏に情報が山のように、波のように、思ったことを……考えを次々に、ああ……」


「そうか。いいぞ。実験は成功した。君の脳内に埋め込んだ電子回路は上手く動ているということだな。それで、何が見える?」


「え、えっと……私のことを、検索しました。私の戸籍、出生、学校から、SNS……あ、ここからでも書き込める! すごい! 他の人のアカウントのダイレクトメッセージの内容まで見れる! あはっ、プライバシーも関係なく……ああ、すごい! これがIPアドレスを辿る、感、覚……」(何かがしたたり落ちる音)


「ああ、待て、待て待て! ストップだ! ストップしたまえ!」(椅子が倒れる音)


「あ、ああ、あ゛、あ゛あ゛、博士、はか、わた、し、し」(何かが零れ落ちる音と心電図の音がけたたましくなる)


「緊急停止だ! うっ、酷い臭いだ……脳が焼けているのか……実験中止! 中止だ!」


(複数人の慌ただしく動く音と共に音声は途切れる)


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