「獲得ゴールド10000000000000000倍」のチートを使って3分で終わらせる異世界転生RTA

北 流亡

最終話

 上原杏うえはらあんずには三分以内にやらなければならないことがあった。異世界からの脱出である。


 薄暗い部屋、足元に光る魔法陣、こちらを見つめるファンタジーな格好をした人間たち。杏は瞬時に状況を理解した。


「魔王を倒せば良いんだな?」

「そ」


 その通りです。そう言い終える前に、男はその場に崩折れた。

 手刀。杏が、延髄に叩き込んでいた。

 杏は内側から力が湧いてくるのを感じた。男を倒すことによってレベルアップしたのだ。


『パラメーターにポイントを振り分けてください』


 頭の中に、声が響く。

 杏は迷うことなく「特殊能力」に全振りした。


「ゆ、勇者様!?」

「勇者様が乱心されたぞー!」

「者どもー! であえであえー!」


 王の間に100人ほどの兵士が駆けつけるのと、彼らがその場に崩折れたのは、ほぼ同じタイミングであった。

 手刀。杏が、延髄に叩き込んでいた。

 杏はまたレベルアップし、ポイントを全て「特殊能力」に注いだ。


 夥しい数の金貨が積もっていた。床が見えなくなるほどである。


『獲得ゴールド10000000000000000倍』

 それが、杏がこの異世界で得た特殊能力チートである。


 杏は王の首根っこを掴んで、武器庫へ入った。兵士たちの装備でごった返しているのもあるが、かなり狭い部屋である。


「き、貴様ー! いったい何を」


 手刀。杏が、延髄に叩き込んでいた。

 レベルアップはしなかった。

 金貨が、大量に溢れた。膨れ上がった金貨は杏を押し潰した。


「あががががががが」


 杏は痙攣する。その世界に元々存在していた壁と、異世界的記号として発生した金貨の、存在と非存在のせめぎ合いに巻き込まれる形になる。


 そして杏は飛び出す。世界の矛盾に弾かれて、果ての果てまで飛んで行った。


 迷宮の地下一階にいた。

 この世界のラストダンジョンである。ここの地下百階に魔王がおり、倒したら晴れて攻略クリアである。


「我は勇者ぞ! かかってこい!」


 杏が叫ぶ。魔王の配下が次々と集まってくる。


 この時点で残り40秒である。


 杏は魔王軍666体の精鋭を2秒で倒した。

 手刀。杏が、延髄に叩き込んでいた。


 金貨が地下一階を埋め尽くした。

 魔王軍666体×100枚×10000000000000000×金貨1枚あたりの重量30g=およそ2京kgが瞬時に発生する。


 金貨は地下一階〜九十九階を一気に貫いて百階まで落ちた。

 魔王は死んだ。おそらく、自分が死んだことにすら気がついていないだろう。


 この時点で2分50秒。杏の目の前にいつもの通学路が広がっていた。


 杏は駆ける。チャイムが、鳴り始めていた。

 杏は校門を突っ切ると、校舎の壁を蹴り上がり、三階まで登る。


「みなさん、ごきげんよう」


 クラスメイトが唖然とした顔で、窓から現れた杏を見る。担任教師も同様だ。


 こうして、杏の無遅刻無欠席は今日も守られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「獲得ゴールド10000000000000000倍」のチートを使って3分で終わらせる異世界転生RTA 北 流亡 @gauge71almi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ