第7話

姿を消したときと同様に、ふらりとリーミルが王の執務室に姿を見せた。ボルススは笑いながら、謁見の許可を求めるという儀礼を無視する孫娘を改めて叱った。

「ここでは礼儀をわきまえよ。我々が礼儀をわきまえぬ田舎者だと噂が立つ」

「私、田舎者もいいかなぁって思うのよ」

「例えば?ルージか」

「たとえ、ルージ国に行ったとしても、生魚は食べなきゃいいのね」

「それは、アトラスに嫁いでも良いと言うことか?」

「まあね」

「どういう心変わりだ?」

「愛を司るフェリンの悪戯に引っかかったと言うところかしら」

 ボルススの見るところ、普段は装飾品にはさほど興味を示さない孫娘が、腕輪をもっている。孫娘は腕輪を見せびらかすように手の中で転がしたり、指で回したりした。その癖、大事な物を扱うように落として傷つけるのを恐れる様子もある。

「では、面会の話を進めて良いのだな」

 ボルススはそう言ったが、政治と愛は切り離している男である。孫娘の意志と関わりなく政略の道具に使う。日程は既に決まっているはずだ。その日程をリーミルは確認した。

「いつになるの?」

「六日後、ミッシュー明けになる」

 アトランティスの暦でターアの月の後、ミッシューという一年の不浄が集まるとされている不吉な日が5日間ある。その日を避けて吉日に二人を娶せる手はずを整えていると言うのである。

 祖父と孫に互いの腹を探るような沈黙があり、リーミルは話題を変えて沈黙を破った。

「見て、私にはぶかぶか」

 リーミルは手の平で弄んでいた腕輪を、するりと腕にはめてみせた。ボルススは孫娘に提案した。

「気に入ったものならば、手直しさせれば良かろう」

 フローイ国は山岳地帯が多く、銀を産出する。人々は銀を使った細工が巧みで、フローイの銀製品としてアトランティスで鳴り響いている。そんな熟練した細工師に依頼すれば、腕輪の大きさなどリーミルの腕に合わせて上手く作り直すに違いない。

「いいわ、このままそっとしておきたいから」

 リーミルはそう言って、するりと身を翻して部屋から消えた。

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