3分間

NADA

○○には三分以内にやらなければならないことがあった

尚子には三分以内にやらなければならないことがあった

給食を食べ終えること

あと三分で掃除の時間になる


教室内でまだ給食を食べているのは尚子だけ

嫌いなメニューがあるのではない

満腹感で食べられないのだ

手も口も動かない

食べなければと思っているのに、体は凍りついたように固まっている


タイムリミットはすぐにやって来た

無常にも教室の後ろ側へ机と椅子の移動が始められた

皆が掃除をする中、尚子ひとりだけ机と椅子の間で給食とにらめっこ



「ご飯を残したらいけないの?」


不思議そうにマコトが聞く


「全部きれいに食べることが、食べ物や料理人に対する感謝と礼儀だと教えられていたの」


「決まった時間に皆同じだけ食べるなんて、できっこないよ」


「そうね、マコトの言う通りだね」




あと三分で休憩時間は終了


トイレに行っておけばよかったかな…

ペットボトルのお茶を飲みながら、ちらりと壁の時計に目をやる

今から行ったら間に合わない

諦めて机の上を片付けるとパソコンと向き合う


休憩時間終了の合図の音がして、一斉にキーボードを叩く音が鳴り響く

顧客のデータ入力の仕事

社内にズラッと横並びのデスク上のパソコン

50分毎に10分休憩がある

尚子は無心でひたすらキーボードを打ち続けている



「AIの仕事じゃなかったんだね」


マコトが目を丸くして言う


「もう少し遡ると、人間が手書きで文字を書いていたのよ」


笑いながら、マコトの祖母が言う


「休憩時間も決められていたのか」


マコトは肩をすくめてあきれ顔をした





『三分という時間の概念』

古代文明の授業のレポート課題


おばあちゃんの若い頃の時代、昭和の年号を調べることにしたマコトは、その時代のパラレルワールドへ行き、若かりし頃の祖母を本人と一緒にウォッチング



「三分といえば、カップラーメンが食べたくなるわ」


祖母の尚子が懐かしそうに言う


「何それ、美味しいの?」


「乾燥保存状態の小麦由来の麺をお湯で戻して3分待って食べたの」


「小麦?聞いたことあるよ、何で三分待つの?」


「三分でちょうど食べ頃に出来上がったの」


「ふーん、三分って奥が深いな」


「三分あれば何でも可能ね」


悩める孫の頭をポンポンと三回撫でる尚子



パラレルワールドを行き来するのに三分もあれば充分な今の時代

尚子の過ごした若き日の時代が夢の中の出来事のように感じる


カップヌードルを思い出しながら、物質プリンターで麺料理を起動させる

似たような味を探して食べよう

麺料理はマコトの好物でもある


どれも違うな…

あれは三分待つから美味しかったのかもしれないな、と尚子はひとりごちた


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3分間 NADA @monokaki

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