オルタンシア帝国

 「ええと、国王陛下から聞いております。アイリス様とフェンリル様でございますね。国王陛下が待っておられるので、直接城へむかって下さい。」


 「ありがとう。そうするわ。」


 オルタンシア帝国とエランティス王国との国境に着くと、何人かの迎えが来ていた。神獣とも言われるフェンリル(ジニア)を連れているのだから、さすがにノーマークとはいかないのだろう。


 ここでも王国にいた頃のように、国にとって重要な存在であるであった私を腫れ物に触れるかのように扱うのだろうか。それとも、いつその力を悪用するか分からないと警戒した目で見られるのだろうか。


 そう考えながら帝国に踏み込み、街へ向かうと、


 「あの方よ!国王陛下が言っていたわ!神に愛された子!」

 「なんと!隣にいるのは神獣フェンリル様ではないか。女神と神獣、素晴らしい組み合わせだ!」

 「まさかこの国に来てくださるなんて!」

 

 予想外の反応に心底驚いた。


 「驚きましたか?国王陛下がアイリス様を思って、あなたの素晴らしさを国中に伝えたのです。力だけではなく、国のために精一杯尽くす美しい心も。」


 「え、なんでそこまで...」

 

 オルタンシア帝国の国王に接点なんてないはず。一体どうしてここまで良くしてくれるのか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 君は、覚えているだろうか。

 もう10年以上前の話。

 初めて自分の国から出て、隣の国の王族に会いに行った。

 ぜひオルタンシア帝国との交流をしたいと言ってきた大人からは、汚い、自分の利益しか考えていないような人間から感じる特有の匂いがした。

 父上と母上がそれに気づき、僕に庭園へ行っておいで、と言った。

 庭園には美しい草花や木がたくさんあった。ひとつひとつに目を奪われている間に、どこから来たのか分からなくなってしまった。


 その時だ。僕が君に出会ったのは。


 「君、迷子?」

 「うっ、うぅ。どこから来たか、わからないの。」

 「私がいるから、大丈夫だよ!だから泣かないで!」


 そう言って笑う君の笑顔は、庭園に咲いているどの花よりも美しく、眩しかった。

 僕にとって君は、


 「私ね、お花が好きなの。私の名前もお花の名前。アイリスっていうの。あなたは?」

 「カクタス。」


 初恋の人だった。





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 未公開にしていた、「私のロシア日記」の1話を公開にしました!





 

 

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