焦燥

書き、消す、繰り返す。蝶のようにひらひらと宙を舞っている言葉をつかまえられなくて、運命だと信じたくだらない過去を神話に変え、それが意味だと叫びたかった人生だった。


キーの上をさまようだけの私のゆびさきは細く、頼りなくて、雲をつかむように、空にむかって伸びていくだけでいつまでもなにも紡げないまま、いずれ灰色の煙に消えるのだと、とうに知っていた。

どこへでも太陽を持ち歩き、ゆびさきは黒く焼けこげた。あこがれはあかるすぎてはいけない、あつすぎてはいけない。光のなかで探す言葉は、こおりのように澄んですぐに溶けてしまって、私にはなにも残されないから。


だから私は太陽を捨てた。


そら、次の言葉、次の言葉と、飛びとびに動く指先は軽くなったのに黒いまま、さみしくてかなしくて、西に遠ざかる記憶が赤く沈んでいくのを見てられなくてなくしかなくって、海がなぐのを浜にすわっていつまでも待っていた。


しかしてふたたび言葉は出ない。打ち寄せる海の波にむかってキーを打つのに、言葉が出ない、意味が生まれない、空を埋めるだけのからっぽな線がうねうねと泳いで線になって雨になって降るだけの孤独と毒の、赤と緑がビビッドだった。いずれほどけてきっと、この画面の外へと逃げて、私以外の誰かの言葉になってしまうのだ、愛になってしまうのだ。

ほら、それ、つかまえたいのに。つかまえたいのに。感情に言葉を与えた瞬間に消失してしまう感覚を、言葉にしたかったのに、とらえられずにゆびさきは惑い、触れるうつろ、揺れる私。


どうしたってダメだったって悟って捨てたはずの私を焦がすだけの太陽が、遠くであわく火を燃やしている。ダメだダメだどうしたってダメなのだった私はここからいつまでも逃げられないだろうって、でも、やはり、黒いゆびさきは太陽を求めていた。


もっと焼いてくれって、ゆびさきを、肉体を、心を焼き尽くすくらいの焦燥で、私を奮い立たせてくれって。


アセルスアウストラリスを見上げ、祈る。星のない夜。

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