第33話 イエスマン
いつの間にか、課員が一人増えた。イエスマンMである。昼ギツネ課長の言葉には常にハイハイと答え、そして何一つ仕事というものをしない。そんな人物である。
彼は新しく来た新人一人をつけて貰って電波暗室で一日を過ごす。
そこに設置したパソコンを前にしてただただ暇を潰している。
彼が仕事をしていないのはそのパソコンを見れば判る。
「ウィンドウズは使っていると静かに狂うから、再インストールが必須なんですよね」
そう説明して、一週間に一度ウィンドウズを再インストールする。この時代のウィンドウズはインストールするのに丸一日かかるのだ。
もちろんウィンドウズの再インストなど数年に一度、場合によっては全く不要である。まともな頭をしていたらとてもこんな言い訳はできない。
ウチの真面目な技術者グループからは笑われ軽蔑されていたが本人はまったく気にしていなかった。大事なのは課長の心証だけである。
まさにサボリーマンの鑑。
彼は長い間、私のグループの業績の陰に隠れて何一つ仕事をせずに過ごしていた。新人も最初からこの環境の中で、たちまちにして見事な役立たずへと成長した。
鉄は熱い内に打たないとただのガラクタになる。
私がこの会社を辞めることになったとき、今まであった大きな傘がなくなって彼はどうするだろうと考えていた。
結果は簡単だった。
彼は私が辞めるよりも早く会社を辞めて逃げ出したのだ。ただの一つも仕事をすることもなく。
それがイエスマンMの処世術であった。
いや、彼だけではない。私が辞める前には大勢のこうした私にぶら下がって生きてきたクズどもが一斉に辞めた。それは沈みかけた船からネズミが逃げ出すかのような有様であった。
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