第17話 汚い会社の話

「いやあ、凄い話だね」

 久しぶりにM部長に会ったときの第一声だ。この人はいま、別の部門で動いているので、ほんの時たまにしか会わない。気さくでお喋り好きな技術者の鑑である。 色々な会社にまつわる面白い話をしてくれた。


 ほら、パンを捏ねて焼いてくれる家庭用パン焼き器があるだろう?

 あれ、最初に作ったの小さな会社なんだよね。で、その商品に目をつけた大手の会社がさ、一計を案じたわけよ。取引のある他の会社に頼んで、創業祭の景品に使うからって大量に安く仕入れてさ、それ全部驚くほどの安値でディスカウントに流したわけよ。一度これやられるとさ、もうそれ以上の値段では売れなくなるわけよ。たちまちにしてその会社を潰して、その後には自分の会社で開発したパン焼き器売り出したのよね。

 見事に商品企画横取りよ。


 M部長のネタは尽きない。次の話に移る。


 ほら、よく企業が自分とこの新商品の名前を一般公募するじゃない。あれ、ウチもやっているじゃない。そこで計算してみたんだ。広告代理店への手配とか、商品への刻印とかね。どれも一朝一夕に出来ることじゃないしね。時間がかかるのよ。

 ところが公募からの時間を見ると、どう考えても間に合うわけないんだよね。

 つまり最初から出来レースなんだ。公募なんてまったくの嘘。


 うーん。酷い話だ。


 参ったよ。こないだ、お客さんのクレームが来てね。行ってみたらこれがヤクザなんだ。

 うちの新製品の大型プラズマディスプレイを一式、TVチューナーも含めて買ってくれてね。大型スピーカーにアンプも、全部で三百万かかったみたいなんだけどね。それで出来上がったシステムを使ってみたら、自分が思っていたものと違う。どうしてくれるんだってね。二千万払えって言われたよ。もちろん、断ったけどね。


 ひえええ。そんなものの交渉には行きたくないなあ。


 M部長の話は続く。この人の話は聞いていて楽しい。お喋りを聞くのが全く苦にならない。

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