第1話 吝嗇
F社の関連会社の中で唯一家電を商品としている会社。それがG社であった。
どこまで行ってもF社の勢力圏内から出ることはできない。それはF社の人脈の周りで動いているからむしろ当然であった。
以前、こんな所で働けるかとタンカを切ってF社を辞めた人間が仕事を探すも見つからず、元の上司に泣きついてこのG社に入れて貰ったという話を聞いたことがある。そのときなんて情けないことか。自分なら絶対にそんなことはしないぞと笑ったことがある。
どうやらそれを言霊に聞かれてしまっていたらしい。
(身の回りの実話怪談『言霊』参照)
同じ状況に置かれてしまった。本人がどんなに嫌でも、この話を断ればM部長に迷惑がかかる。それだけはできない。
言霊のクソ野郎め。これを読んでいる誰か。この言霊を貰ってくれ。
一週間以内に出社してくれとG社から日限を切られる。
大騒ぎである。新しい家を見つけ、猫と母をカバンに放り込んで慌てて引っ越しをする。
ボーナス支給日の翌日の入社であった。
ボーナス支給日に入社すると寸志が出る。しかも次のボーナス支給日には満額が出ることになる。ボーナス支給日の翌日だと次のボーナスも寸志になってしまう。わずか一日の差がとても大きいのだ。
この点は今では部長となったMさんが交渉したが、G社は認めなかった。たかが人材にこれ以上の金を出してたまるかという態度だ。
このことは頭の中に刻み込んだ。
最初からできる限りの待遇を見せれば、人は恩に着て忠誠を尽くす。軽く扱えばどんな人でも手を抜いて働く。
人とはそう言うものだ。
いや、それは古いタイプである自分だけなのかも知れない。今の世は大事に扱ってやっても恩一つ返さない忘恩の徒に満ちている。
だがそれでも最初の信頼の手はより強い立場にある会社側から差し伸べねばならないものなのだ。
この会社の第一歩は失望から始まった。
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