第14話実家3

「そんな訳あるか」


 お兄様に聞いてみたら即答されました。

 どうやらありえないことらしいです。

 流石は「王立学園始まって以来の秀才」と謳われたお兄様。

 即答とは。感服いたしました。


「上級妃の、それもカールストン侯爵家の娘を伯爵以下の男に嫁がすなど論外だ」


「一応、オウエン様は伯爵家の人間ですよ?」


「知っている。だが、伯爵家の次男だ。受け継ぐ爵位はないから騎士になった男だ」


「陛下の側近兼護衛騎士ですから出世は見込めますでしょう?」


「実力はあるだろうが、目立った功績を上げない限り爵位は与えられない。今が戦争時ならまだわかるが……。平和な時代に騎士が騎士爵位以上になるのは難しい。もっとも文官であっても同じだろうがな」


 なるほど、言われてみればその通りだった。


 私の夫になったオウエン・ローマン。

 伯爵家の次男である彼は陛下と同じ二十六歳。

 陛下のご学友から側近に選ばれただけあって優秀な人材であることは確かでしょう。剣の腕も立ち、容姿もそれなりに整っている。

 いずれは近衛騎士団長の地位に就くかもしれないと噂されていた。まあ、あくまでも噂なので、どこまで本当なのかはわからない。それでも陛下の側近であることから信憑性はある噂話。


「今は騎士爵ですが、将来的に叙爵される可能性はあるのでは?」


「……近衛騎士団長になれたとしても難しいと思うぞ」


 お兄様は眉間に皺をよせながら、考え込みます。

 私は首を傾げて訊ねます。


「なぜですか?」


「平時だからだ。近衛の頂点に立ったとしても叙爵されるのは、戦が起きた時だけだ。よほどの功績をあげないかぎり一代限りの騎士爵にしかならないだろう。陛下がオウエンをどこまで取り立てるかは解らないが。それでもいずれ陛下の側近としても近衛騎士団長にはなれるだろう」


 お兄様の説明を聞いてなるほどと思いました。

 近衛騎士団に入団するのは専ら貴族の子弟たち。

 入団試験に突破すれば平民でも入れますが、それでも貴族が圧倒的な割合を占めます。主に跡取りになれない次男や三男以下が多いのですが。

 その例に漏れずオウエン様もその一人。


「騎士爵でもないよりマシですわね」


「ああ、爵位があるのとないのとでは大きく違う。社交界では特にな」


 爵位があるのとないのとでは立場が全く違います。

 全員がそうとは限りませんが、それでも爵位を持たない貴族は一段低く見られがちです。

 社交界とはそういう集まりなのです。


 まぁ、オウエン様がそのことをどれほど気にしているのかは分かりませんが。


 オウエン様が気にしていなくとも、周りはどう思っていることやら。

 もしかすると陛下はそれが目的で私とオウエン様を結婚させたのでしょうか?


 カールストン侯爵家は、「侯爵位」の他に「子爵位」と「男爵位」を持っています。子爵位はお兄様がすでに継承しています。


 ダニエル・プレストン子爵。


 兄は生まれてすぐに「プレストン子爵位」を継承しています。

 これは我がカールストン侯爵家ならではの継承方法です。

 跡取りには「プレストン子爵位」が与えられるのですけど、それ以外の爵位に関しては「継承権のない者」に譲れるようになっています。


 そう考えると、オウエン様と結婚した私に両親が「男爵位」を継がせる可能性が高いというもの。

 陛下も考えましたね。

 爵位を与えられないのなら、持っている家系から、という事なのでしょう。

 なかなか、ニクい事を考えますね。


 そうなるとやはり――――


「私とオウエン様の結婚。無効は難しいでしょうね。陛下は認めないでしょうし、オウエン様も爵位を得る絶好の機会を手放したりしませんわ。私と結婚すれば自動的に男爵になれますもの」


「だろうな」


 私の問いにお兄様は頷きました。

 オウエン様にとってこの結婚はメリットだらけ。

 彼にとってこの婚約は願ってもない話なのですから。



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