第8話後宮6

 翌日、何故かグーシャ国王陛下が白の離宮を訪れた。

 夫が自分の妻の宮殿を訪れるのは、なにもおかしなことではない。

 しかし、後宮入りした妃は通常二週間は陛下の御渡りはない。それは夜だけでなく昼も同じこと。

 これは妃が新しい環境に慣れないための配慮である。

 そのため、グーシャ国王陛下が私のもとに自ら訪れるのは異例のことで、離宮の者たちは騒然とした。


「そなたが、シャーロット・カールストン侯爵令嬢?」


「はい。お目に掛かれて光栄ですわ、陛下」


 不機嫌さを隠しもしないグーシャ国王に対し、あくまでにこやかに対応する。


「昨日、ローズの茶会に参加しなかったようだな」


「はい」


「何故だ?」


 有無を言わせぬ雰囲気で尋ねてくるグーシャ国王に内心ため息をつきつつ、あくまで表面上はにこやかに答える。


「何故、と申されましても、この白の離宮の女主人の対して“紅薔薇の髪飾り”を付けてくるようにとのお誘いを断るのは当然のことと判断いたしました。ローズ様には後宮入りした次の日に先触れもなく突然来訪されまして、色々とご指南いただきましたわ。後宮の規律や、規則についてなど。ご存じありませんでしたので、大変勉強になりました」


 嘘は言っていない。

 彼女から後宮の規則について聞いたことは本当だ。ただし嫌味混じりで。


「ローズはそなたの参加を楽しみに待っていたのだ。……随分と気落ちしていたぞ」


 ローズ様がそんな殊勝なわけないでしょう!と叫びたいのをぐっと堪える。

 そもそも参加を断ったからなんだと言うのだろう?気に食わないから陛下に告げ口?ローズが気落ちしたとか言われても「だから?」としか言いようがない。むしろこっちが文句を言いたいくらいだというのに!


 私に対して嫌がらせのような形で招待をしたくせに。

 何がそこまで気に入らないのかは知らないけれど、彼女のご機嫌取りのために参加をする必要はない。そう判断し、欠席をした。ただそれだけのこと。



「私もつい最近知ったのですが、かつて離宮は薔薇の名称で親しまれていらっしゃったとか。白薔薇と謳われた白の離宮の主としては赤の離宮に紅薔薇の装飾を付けて伺うのはいかがなものでしょうか。私はローズ様の教え通りに秩序を乱さないための行動をしたにすぎません」


「考え過ぎではないのか?ローズにそのような意図はない」


「ローズ様にそのような考えがなくとも、他の方々は違う場合もございます」


「む……それはそうだが……」


「諍いの元になるのでしたら、参加を見送るのは当然です」


「うむ……」


 納得しきれていないようだが、とりあえずは頷いておくことにしたらしい。

 グーシャ国王「そなたがそこまで言うのであれば仕方あるまい」と言って、帰っていった。


 本当に一体なにをしに来たんだろう。




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