第32話 エイプリル・フール

 その日はエイプリル・フールだから。あの子に、好きだよ、って言って少しでも変な顔されたら、嘘だよ、って言えばいいと思ったんだ。


 小学校は春休みだったから、多分、わざわざあの子の家まで行ったんだと思う。


「す、好きだよ!」


 そう言ったら、すごい驚いた顔された。


「なんて、嘘だよー。知ってる?4月1日ってエイプリル・フールって言って嘘つく日なんだって。お母さんに聞いたんだ。それでね」


 言ってる間に、あの子はどんどん傷ついた顔になって。何も言ってくれなくて。ずっと俯くから、俺はいたたまれなくてあの子が住んでいるアパートから逃げた。しばらく走って振り向いたら、あの子は玄関先でまだ俯いていて。遠く、小さくなってもずっと俯いていて。


 今でも4月1日になるとあの俯いた姿を思い出す。俺の苦い初恋。

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