第21話 行方知らず

 容量がいっぱいだったからスマホの整理をしていただけだった。ふと、連絡先を見ると239名もあった。


 まだ、メールでやり取りをしていた頃のデーターだ。連絡なんて10年以上していない。懐かしい名前もあれば、もはや誰か思い出せないものもある。最近連絡を取り合っている人と言えば10人にも満たないのに。


 きっともう、送っても返ってこないだろうその名前を、私は消せなかった。こんなにも、多くの人と自分はすれ違ってきたのだ、という勲章に思えたから。


 窓を開ければ、風が温かくなってきていた。ふと230人近い人々の今を思う。その今は行方知らずの名前を想い、幸せを願った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る