第7話 愛したら終わり

「寂しいな。」


 と君が言った。


「どうして?」


 と俺が聞き返したら


「ほら、わからないでしょう。」


 と君が言う。


 白い滑らかな肌の、その手首には無数の傷。


 君はいつでも壊れそうだから、その欠片を何度も何度も戻すようにしている。


 それでも、君は戻す先から壊れていく。


「別れて。」


「何を突然。」


「本気よ。」


「別れたら、君は死んじゃうよ。」


「そうさせてほしいの。」


「ダメだね。」


「だから、別れて。」


「俺は君のためなら何でもするよ。」


「知ってるわ。それが理解できたから、別れるの。」


「君が言うことはいつも難しい。」


「そう。愛してもらっても、重なりあえないとわかったから絶望なの。」


「それが、何故だかわかるかい?」


「どういうこと?」


「君が俺を愛さないからだよ。」


 彼女は息を呑み、一筋の涙を零した。


「私、やっぱり壊れているのよ。」


「壊しているんだよ。君が君自身を。」


「貴方はなぜガラクタを愛せるの?」


「頼むから、ちゃんと病院に行こう。」


「嫌よ。治して、貴方を愛するようになったら、終わるもの。」


「どうして、始まりじゃないか。」


 俺が抱きしめようとするその手をすり抜けて、彼女はベッドから出ていこうとする。

 

 けれど、俺はその手は離さない。


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