朝の習作

K.night

第1話 明日は私が飴を置こう

きっとあのガタガタに切り取られた空が水面なんだ。


加藤明里にはそういう日がある。


全てが遠くて、ひどくゆがむ。まるで水槽の奥底に沈んでいるような気分になる、そんな日。


いつもは気晴らしになる同僚とのランチタイムもダメだ。


同僚の発する言葉がまるで水泡みたいにボコボコ見える。


うん、うん、ってうなずいて、笑顔貼り付ける。


同僚がしゃべりすぎて酸欠にならないかなって、ちょっと心配しながら。


とはいえ社会人。こんな日はミスをしやすい。


気を、付けねば。とまるで深水する前みたいに気合を入れると、ひどく苦しい。


パソコンの右下の時計がやけに気になる。


「ほい。」


同僚がデスクに個包装のチョコを置いていった。


“ほっと一息”そう、書いてくれていた。


あ、コーヒーを買って来よう。


チョコはじゃりじゃりと口の中を甘さで占領していって、コーヒーが殊更おいしく喉を通る。


あ、呼吸できた。


久しぶりに午後3時に割れた、私の水槽。

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