全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ VS R-1グランプリ
雨水四郎
バッファロー VS R-1グランプリ
全てを破壊しながら突き進むバッファローには三分以内にやらなければならないことがあった。
破壊だ。
それも、ただの破壊ではない。族長から新たな一族の長として認められるだけの規模を持った破壊でなければならない。
バッファローはオーストラリアの雄大な自然の中で、破壊を司る一族の末裔として産まれた雄バッファローである。
バッファローにとって、破壊とは使命であり、趣味であり、友人であり、恋人でもあった。つまり、全てだ。
そのバッファローにとっても、族長となるための試練は厳しい。
これまで行ってきた破壊では足りぬ。畑や大木、公民館や生協の破壊とは全く異なる規模でなければ族長には認めてもらえはしないだろう。
「ブモモンモ……」
族長候補には小規模ながら、自分の群れを持つことが許されている。
とはいえ、数百万頭いる一族のうちの、ほんの十数頭だ。
その群れの中の一頭が、心配そうにバッファローを見据えていた。
あと三分しか残っていないことに焦っているのだろう。
三分以内に族長から認められる破壊ができなければ、バッファローには死が待っている。それを知っているのだ。
とはいえ、バッファローには迷いはない。
試練の為の破壊なら、とうに対象は考えてある。
R-1グランプリ。
あの悪逆の宴の破壊である。
バッファローには兄がいた。吾郎という名の兄だ。
巨きく、優秀で、眼鏡で、だが仲間にはとても優しい。そんな雄牛だった。
その時は、バッファローもルーターという個体名で呼ばれていた。
ルーターは吾郎をとても尊敬していたし、将来は彼を長とした群れの一員になるのだと当たり前に信じていた。
族長も吾郎こそが新しい族長、群れの主としてふさわしいと考えていたようだった。
だが、数年前、族長への試練としてR-1グランプリを破壊しに日本へ猛進した吾郎は、返ってくる頃にはすっかり人が、いや牛が変わってしまっていた。
なんでもそこにいた人間から「ファイナリスト」、「ケッショウシンシュツ」なる呪いを与えられたらしい。
そのうえ呪われたことを誇りだし、ところかまわずふざけるようになってしまったのだ。
そうして、吾郎は破壊をやめてしまった。
当然、吾郎は一族のつまはじきになった。
ルーターは哀れに思い遊びに誘ったこともある。だが、吾郎は狂ったように「ネタ」と称してふざけるだけだった。
気づけば、群れから吾郎の姿はなくなっていた。群れを出ていったのか、あるいは、族長が破壊したか。
いずれにせよ、日本のR-1グランプリが吾郎とルーターの運命を大きく変えてしまった。
吾郎が居なくなった日から、一族の中でルーターは後継者として扱われ始めた。
ルーターとしても好都合だった。
兄の復讐は果たさねばならない。そのためには日本に行く必要がある。
そして、日本に行くためには、族長の試練を受ける必要がある。
兄の復讐を完遂することは、個人的なこだわりのみではない。
一族の名誉の回復のためにも必要だった。
ルーターは覚悟を示すため、個体名を捨てた。
もはやこの身はただの牛ではない。
種と一族の名を背負い、一族の化身として生きる"バッファロー"だ。
R-1グランプリがどのような大会か、Rが何を意味するのかはバッファローにはわからない。
まさか落語じゃないだろうし。
だが、復讐を果たすために、R-1グランプリを破壊しなければならない。それは確かだ。
そして、今日が決勝が行われる日である。
「ブモオオオー!!」
バッファローは破壊の決意を込めて雄叫びをあげた。
だが、残酷なもので、こうして決意を新たにしている間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。
試練を与えられてからずっとバッファローの視界の隅に写っているタイマーは、残り2分45秒を示していた。44秒、43秒……。
現在地、オーストラリア。会場は、東京。
普通であれば絶望的だが、バッファローたちにとっては、全く問題なかった。
「ブモ! ブモ! ブモオオオオオー!!!!」
バッファローは群れに合図し、草原を全力で駆ける。
すると、1秒後には東京の、大きな建物の中に到着していた。
R-1グランプリの会場である。
大量の客席に大きな舞台、そして舞台上方に大きく【R-1グランプリ】と書かれた看板がある。間違いなかった。
そう、バッファローの群れは、その突進力で”距離”を破壊したのだ。
彼らの破壊は、概念にすら及ぶ。
”時間”だけは族長でなければ破壊できないが、それ以外の概念であれば概ねバッファローの群れの突進で破壊ができる。
残り2分39秒、一秒たりとも無駄にはできない。R-1を、あの暴虐邪智の人間どもの腐った宴を破壊するのだ。
「おォ~っとォ! これは凄い飛び入り参加だ!だがわかってるかいウシくんタチィ! ここはR-1、日本最強のピン芸人を決める場だ! 牛にあらずとも、群れはお呼びジャないねェ~~!!」
「ブモオオオオー!!!」
「ブモオオオー!!!」
舞台上に立つ、シルクハットを被った司会と思わしき人間が何事かをハイテンションで捲し立てているが、バッファローの群れは無視して会場内を走り回る。
椅子に座っている人間たち、謎の機械を持っている人間たちは、それだけで全員破壊できた。
残りは、舞台にいる奴らだけだ。
なんだ、所詮脆弱な人間の集まりではないか。なぜ吾郎はこんなものに負けたのか。バッファローは訝しんだ。
「はい、ストップ」
舞台袖から出てきた男の、その声を聞いた。
それだけで、嵐のように破壊を撒き散らしていたバッファローとその群れたちは、ピタリと静止してしまった。
「こんばんは、ウシくんたち。少しお話、いいかな?」
「あ、ああ……」
「わかったわ……」
群れの仲間たちが、次々との男に従っていく。
それも、"言語の壁"を破壊「させられて」いる。
「え! 日本語通じるんだ、流石だね!」
親しみさえ覚えそうなほど屈託なく笑う男を、バッファローの群れたちは目を虚ろにして見つめている。
バッファロー自身はなんとか耐えているが、この力の正体が分からなければ破壊もできない。
耐えているバッファローに気づいたか、男は笑みを深めてバッファローに近づく。
「やあ。僕はロウラっていうピン芸人さ。ねえ君……。吾郎の知り合い?」
「吾郎だと……!? 吾郎は、俺の……兄だ!」
「ンンンなああんと!! あの勇猛なバッファロー、吾郎の弟ォ!? たしかに面影、ありますねェェッヘェ~」
シルクハットの男が大げさに驚いているが、あからさますぎて胡散臭い。
おそらく、ひと目見たときからわかっていたのだろう。
「やっぱり。吾郎は凄い牛だった。この大会の隠された意味にも気づいたし、破壊しようとした。実際あと一歩で全て壊されるところだったんだ」
「貴様が、兄貴を……?」
「結果的にはそうかな。大会を壊されるのは困るから、彼もピン芸人にしてあげたんだ。結構面白かったからファイナリストの称号もあげたんだよ」
その言葉に、バッファローの頭の中が赤く染まる。訳の分からぬ力で静止させられていなければ、とうに目の前の男を破壊するために猛突していただろう。
だが、奇しくもこの状況下が、バッファローの心に一部の理性をもたらした。
「……いや、待て、隠された意味だと……? R-1のRのことか……?」
まさか落語じゃないだろう。だが、バッファローには皆目見当がつかなかった。
「そう! 表の意味は落語、なんですがァ~……」
「えっマジで落語なの?」
「落語なわけないだろ、誰もやってないじゃん」
バッファローとロウラは揃ってツッコミを入れる。ピン芸人の大会であるR-1においてボケた相手にツッコミを入れる風景は通常起こり得ない。
そのため大変貴重な状況と言えた。見れたあなたはラッキーである。
「それはどうでもいいんですねェ!! 大事なのは裏の意味……つまりこの大会がロンリー・ロード、ただ一人の支配者を決めるための大会ってことなんですねェ~~!!」
「ロンリーとロードってどっちもLじゃないか?」
「日本人はLとRの区別がつかないからどちらもRとして扱われてるんだよ」
「そうなんだ。オーストラリア牛だから知らなかったな」
どうやらそうらしい。
つまり、R-1グランプリとはこの世におけるただ一人の支配者を決めるための大会で、吾郎はそれを破壊するために大会に乗り込んだ、ということだった。
「そしてェ~~~! 21年連続この大会の、いや国の、いや星の主! いと高きロンリー・ロードの座に君臨しているのがロード・ロウラ様ってことなんですねェェェ!!」
「なるほど……つまりコイツの力は……」
「支配の力、ってことになるね。ピン芸人として頂点ってことは人間の頂点。人間の頂点ってことは全生物の頂点ってことだからさ。下の生物は支配できるんだ」
「すげェ力だな……。でも、ネタがわかったならやりようが……」
バッファローは、支配の力を破壊しようとした。だが、できない。
一瞬弱まったような気もしたが、それだけだ。
「破壊できると思った?ネタがわかってても笑ってしまうのが一流の芸人だからね。ピン芸人の孤独と笑いから形作られる支配の力も同じさ」
「ウヒヒィィー! さっすがロード・ロウラ様ァァァ~~!」
ロウラは、まるで破壊の力など問題にしていないかのように笑う。
許せない。だが、対抗する手段が見つからない。
「そろそろ、終わりにしようか。大会を壊されるのは困るからね。でもお話は楽しかったよ」
狂ったように笑う司会の男を無視し、ロウラは、視線をバッファロー本人に強く向ける。
支配の力がバッファローの身体により強く浸透していく。抵抗する気と意識が急速に減じていくのを感じた。あと数秒持つかどうかだ。
次第に薄れていく意識の中でなんとか打開策は無いかあたりを見回す。
あるのは十数頭のバッファローの群れと、二人の人間。そして、視界の端ではタイマーが、残り一分を切ったことを知らせている。
残念ながら都合のいいものなど存在しない。八方塞がりか……。
「クヒヒヒ! 吾郎の復讐でこーんなに群れて来ても、結局この通り。やはりロード・ロウラ様にはだーれも勝てませんねェ!!」
群れ……そうだ、群れがいる。
今ロウラの支配の力は、バッファローにだけ集中している。
もちろん、群れの牛にも全く影響が無いわけじゃないが、それでもかなり正気に戻りかけているように思う。
今だ。今しかない。
「破壊破壊破壊破壊破壊破壊!!!!!」
バッファローは渾身の雄叫びを上げて、残る力で一度だけ地を蹴った。
それだけで、突進せずとも秒間6つの破壊を成し遂げた。
5つは同じものだ。
群れの中の雌牛5頭に対して、支配を破壊した。これで一瞬だけでも支配から脱するはずだ。
そして残りの一つは――――
「俺の子を、産め!!!」
「出産に関するプロセス」の破壊だ。
支配からの脱出と出産プロセスの破壊。そして群れの長からの命令。
これにより、5頭の雌牛は、即座に子を産んだ。
「そ、そんなことをしてなんの意味が……? 多少の頭数が増えたところで意味ない……グエッ!」
仔牛の一匹がロウラを吹き飛ばす。予想通り、彼らには支配が効いていない。
「なぜ支配の力が効かないのですゥゥ!?」
「へっ、そりゃ……赤ちゃんに……ピン芸人の芸なんてわかるはず……ないわな」
バッファローには未だ支配の力が効いている。
だが、予想通り産まれたばかりの仔牛には支配の力は効かない。
ロウラがわざわざ最初に言葉の壁を破壊させたのは、"言葉が通じる方が支配が効きやすい"からだろう。
ロウラの支配の源はピン芸人としての芸。
であれば言葉どころか芸の概念すら理解していない赤子に効く道理はない。
逆に、仔牛であろうともバッファローの子であれば、それは破壊の一族である。
他の動物と比べれば、圧倒的に頑強な肉体と突進力を持っている。虎は元々強いというが、バッファローならば尚更だ。
そして、赤子とはいえ彼らには、強烈な破壊本能が既に根付き、群れのために十全に働くことが出来る。
5頭もいれば、それは小さな群れとなる。人間を破壊することなど造作もない。
群れの力。そして、破壊の力。ロウラが操る孤独な支配とは対極に位置する力だ。
であれば、仔牛たちがロウラも、司会の男も倒すはずだ。
「形勢逆転だな? ロードとやらは吹っ飛んでるし……あんたも同じ目に合うか?」
「い、いやだ……やめて……そんな……ロード……」
「さっきまでのテンションは……どうした? 命乞いしても……いいんだぜ?」
仔牛たちが司会の男を取り囲む。
勝った。ロウラは倒れ、あとは腰巾着の無力な男を倒すのみ。
残りの時間は、20秒。
この時間で大会そのものを破壊すれば、復讐も、試練も完了だ。
「お、おしまいだァァァ~!!! …………ンなァんちゃって!」
司会の男がシルクハットからトランプを取り出し投擲すると、仔牛たちは眠るように倒れていく。
薬でも塗られていたのか。
「ワタクシ、こういったときのためにロード・ロウラに仕えているんですよねェェ!! 武闘派司会でございます故! 大人の牛ならともかく仔牛なぞ!!」
司会の男のスーツが破れ、中から異常なほど発達した肉の塊が露出する。
バッファローほどではない。だが、人間ではありえぬほどの筋量であった。
そして、男は相変わらず狂ったように笑っているが、さきほどまでのような油断はまったくない。
戦士の目をしている。バッファローはそう思った。
「それにロードの支配はいかほども緩んでいない! そうでしょう! 起きてくださいませ! ロード・ロウラ!」
「……厳しいね……。そりゃ、自分の身体を支配すれば、仔牛に小突かれたくらいじゃ、死なないけどさ……ゴホッ」
「ンン! あとで病院に行きましょうねェ! さて、形勢が……なァんでしたっけェ?」
ここまでか。
群れの仲間はみな支配により無力化され、赤子たちも死んではいないものの、眠らされている。
破壊の力も残りわずかで、しかもタイマーはあと10秒を切っていた。
打てて、あと一発。
それがバッファローに残された最後の力だ。
だが、それはあくまでバッファロー個人の話である。
「なあ、お前ら……お前らだって、バッファローだ。なら……まだ……やれるだろ?」
バッファローは群れに声をかける。
そうだ、バッファローに残されたのは自分の力だけではない。
群れの一頭一頭がバッファローで、破壊の一族なのだ。
であれば、多少なりとも破壊の力は持っている。
「今だぜ……全員で、支配の力を破壊しろォ!」
「応よ!!! ブモオオオ!!!」
号令の元に、バッファローの群れたちは一斉に走り出す。
支配を受けているため速度はない。故に、突進力を源とする破壊の力も、十全には発揮できない。
しかし、十数頭の群れを相手に、支配の力とて無限ではない。仔牛が負わせた怪我もある。
その突進速度は、時間とともに着実に上がっていく。群れたちは、確実に支配から抜け出しつつあった。
「ありがとな……お前ら最高だ……! これなら、全力で走れる……」
群れの力により、バッファローの支配も弱まった。
もはや彼だけはほとんど十全に動ける状態だ。
行使できる破壊の力は一度だけ。それは変わらない。
だが、問題ない。今回の狙いに異能力のような破壊の力など使う必要はない。
そもそも純粋な突進力だけでほとんどのものは破壊できるのだ。
残り4秒。時間は十分にある。
「と、止まらないィィィ! ヒッ、ぶ、ぶつかるゥゥ!!」
司会の男は思わず身を守ったが、それは無意味に終わった。
バッファローの突進は、ロウラや司会の方を狙っていない。
2人を無視し、バッファローは舞台の奥、その壁に突進した。
当然、発砲スチロールのように壁は粉々になる。
そして、その壁に取り付けされていた【R-1グランプリ】の文字が、落ちた。
だが、それと共に、タイマーが0秒を示――――さない!
タイマーは、残り1秒の時点で停止している!
「……流石に肝を冷やしたけど。おいおい。まさかR-1グランプリの看板を落としたから大会を破壊した、なんて言うんじゃないよね?」
「まさかだろ。だが……もう『破壊は完了』しているぜ?」
「強がりですかァ? ただあなたは壁を壊しただ……アアアアア!!?」
【B-1グランプリ】
バッファローが落とした看板には、そのように描かれていた。
看板が落ちる刹那、バッファローの角はRの下の部分を的確に引っ掻いていた。それでRがBになったのだ。
「ここはR-1じゃねえ。……B-1グランプリだ」
「それは看板を落としたのと何も違わないだ……違う! おかしい! なんだこれは!?」
これまで余裕の表情を崩さなかったロウラの顔が、驚愕に歪んだ。酷く狼狽した態度が見て取れる。
「どういうことだ……この大会は、初めからずっとB-1グランプリだった! 22年間ずっと!」
「そうだ。俺たちがそうした」
「そうした、だと!?」
「あぁ。『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』である俺たちがな」
バッファローは施設の破壊、観客の破壊、そして名前の破壊の3つをもって大会を『正常に運営されていない』状態にした。
それをもって、R-1グランプリの破壊という試練を達成したことが族長に認められた。
そしてその瞬間、バッファローは族長を継承した。残り1秒の時点で。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの一族。その族長にのみ行える御業がある。
時間の破壊だ。
最後の力で時間を破壊したバッファローは過去へ飛び、R-1グランプリ第一回大会の看板を全てBにした。
それで全てが完了した。
英語を学習したことがある者であれば御存知の通り、Bから始まる英単語はただ一つしか存在しない。
辞書を買って、まず最初にBの欄の薄さに驚いた経験は誰にでもあるだろう。
であれば、必然。B-1のBとは――
「この大会は、BUFFALO-1グランプリ、だ」
「そ、そんな……だ、だが! 僕にはちゃんと記憶がある! 私は21年連続優勝者だ! RであろうがBであろうがだ!」
「わ、私もずっと、B-1覇者であるロード・ロウラにお仕えしてるんですよねェ!」
そうだ。バッファローにより大会そのものは破壊され、改変された。だが結果までは破壊していない。
「ああ、本当に凄いよ。B-1グランプリ21年連続覇者と、大会を取り仕切り続けた名司会者……」
「お前らは、本当に凄いバッファローだ」
B-1グランプリの王者。大会を支え続けた司会者。
それらがバッファローでないはずがなかった。
「そうだ、僕は、バッファローだ……」
「ンン! 人間など頭でっかちの下等種族なわけないですねェ!!」
大会そのものが変わっても結果が変わらなかったことで、世界は、結果に合うように彼らの存在を修正した。
そういうことだった。
「負けたよ。僕がバッファローであれば、バッファローの族長……王とも言える君に逆らえる道理はない……。僕が支配される側に回るとはね」
諦めたようにロウラは呟く。
「俺が勝ったのは事実だが、群れってのはそうじゃない。支配じゃなく、絆で結ばれた連帯なんだ。破壊の絆だ」
「破壊の……絆」
そうだ。群れとは決して支配・被支配の関係ではない。
絆であり、連帯だ。バッファローはそう信じている。
「だからさ、お前らも一緒に、俺の群れで全てを破壊しないか?……仲間として」
バッファローは友好の証として角を差し出す。ロウラはそれを驚いたように見ていた。
「ンンン! すみませんロード・ロウラ! 私は群れに入りますゥ!! 破壊したくてしたくて身体がうずいておりますのでねェェェッヒィィィ!!」
司会の男が高らかに宣言する。
元々戦闘のために極限まで鍛えていた男だ。バッファローになり、その破壊衝動がさらに磨かれたのだろう。
彼はまず、ロウラとの主従関係を破壊した。これからももっと破壊を続けるだろう。バッファローの群れの一員として。
「ロウラ。お前はどうする?」
「ねえ……君の群れに入れば、吾郎に会えるかな?」
「会えるさ。大会が改変されたことによって、兄貴も群れに戻ってる。R-1だった頃の記憶があるかは……わかんないけどな」
大会の破壊と改変により、吾郎がふざけていた歴史は無くなった。
バッファローの兄は今も群れで生きている。つまはじきにされることもなく。
「いいよ。群れに入ろう。今度こそ友だちになるんだ。あの気高くイカしたメガネの吾郎と」
コンビを組むのも良いかもしれないな、と呟くロウラの顔は、晴れ晴れとした笑顔であった。
群れの牛たちは揃って歓迎の声を挙げた。直前まで敵であったことなど問題ないようだった。
バッファローの群れは仲間の全てを受け入れ、仲間以外の全てを破壊する。そういう一族だ。
そうして、孤独な支配者は、孤独でも支配者でもなくなった。
「だが、その前に一つ良いかい?」
「なんだ?」
「今回の……B-1グランプリ第22回大会の優勝者さ」
「ンン! そんなの、一頭しかいませんよォォオオ!」
「……いいのか? 連覇記録が途絶えるぞ?」
「いいさ。群れに入る手土産と、族長就任祝いだとでも思ってくれ」
「……ああ。ありがたくいただこう」
第22回B-1グランプリ。
優勝者、バッファロー。
それは雄大な草原の中に生きる、全生物で最も頑強な種族の長である。
それはひとつの思想で連帯し、数百万の同族を一個の生物のように束ねることができる。
それは逸脱の突進力を持ち、時間や概念すらも貫き超越する。
全てを破壊しながら突き進む、何にも縛られぬ群体である。
破壊の群れのバッファロー。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ VS R-1グランプリ 雨水四郎 @usuishiro
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