第24話

 入浴中。


「イギリス人って、お風呂に入ったりするの?」


 会話の種にと、私はアメリアちゃんに話を振ってみた。

 欧米ではお風呂にあまり浸からない。

 そもそもシャワーも浴びない人がいるとは聞いたことあるから、予想はできるけど……。


「あまりないですね」

「そうなんだ。……どう? 日本のお風呂は」

「きらいじゃないです。たまになら、いいです」


 どうやら毎日、湯舟に浸かっているわけではないらしい。

 考えてみれば、聡太も毎日湯舟に浸かるようなタイプではない。


 もっとも、シャワーは毎日浴びているようだ。

 「そーたに、きらわれたく、ないので」らしい。


「アメリアちゃん、良い匂いするけど、何の匂い? シャンプーは普通みたいだけど……」

「こうすい、です」

「へぇー、香水かぁ。私、使ったこと、ないんだよね。……見せてもらってもいい?」

「いいですよ」


 思っていたよりも、気のいい返事が返って来た。

 聡太が関わらなければ、素直な良い子なのだろう。


「ねぇねぇ、アメリアちゃん。さっきの質問だけど、いい?」

「……さっきの?」

「下のそれ、元々? それとも、剃ってるの?」

「はぁ」


 私の問いにアメリアちゃんは呆れ顔を浮かべた。

 やっぱり、教えてくれ……。


『医療脱毛です』


 教えてくれた。

 意外だ。


『快適ですよ。あなたもしたらどうですか? 日本にもあるでしょう?』

「思ったこともあるけど、痛そうだし。それに銭湯とかに入る時、ちょっと恥ずかしいかなって」

『あなたも恥ずかしいという感情があるんですね』

「それはいくらなんでも、失礼じゃない?」

『……ところで、どうして銭湯に入る時に、恥ずかしいんですか? 逆では?』


 私の問いを無視して、アメリアちゃんは質問してきた。

 私は少し考えてから答える。


「日本では、自然のままが普通だから」

『……そうなんですか』


 アメリアちゃんは少し驚いた様子で目を見開いた。

 それから思いつめた表情になる。


『ソータも、自然のままが好きなんでしょうか……』


 不安そうな声音でアメリアちゃんは呟いた。

 医療脱毛なら、二度と生えないだろう。

 

 どう励まそうかな……。

 さすがに、そんなことまで分からない。

 

 うーん、でもまあ、聡太はそんなこと気にするタイプじゃないだろうし……いいか!


「聡太はツルツルが好きだよ」

『そ、そうですか? なら、良かったです。……いえ、別にソータのためではなく、私のためにしたので。彼の好みなんか、どうだっていいですか』


 元気出たようだ。

 「なんでそんなことまで知ってるんですか?」と問われなく、ちょっと安心。

 本当は知らないからね。


 後で聡太に口裏を合わせておこう。



 聡太の好みと言えば……。


「そうだ。今度、聡太の味の好み、教えてあげようか?」


 私の提案にアメリアちゃんは目を大きく見開いた。

 そして小さく鼻を鳴らし、頬を背けてしまう。


 あれ? 思ってたのと、違う反応だ。


『結構です。お料理はお母様から習っていますから。ソータだって、お母様の料理の方が好きなはずです』


 おふくろの味がナンバーワンなはず。

 という理屈か。

 うーん、分からないでもないけど……。


「どうかな? あの人、雑なところあるし。聡太も食べ飽きてるでしょ」

「……」

「それに味をコピーするだけじゃ、それ以上にはなれないし」

「……」


 私の指摘にアメリアちゃんはそわそわし始めた。

 しばらく悩んだ様子を見せてから、アメリアちゃんは私に尋ねた。


『目的は何ですか?』

「アメリアちゃんと、仲良くなりたくて」


 本音半分、建前半分だ。

 私がこの家に泊まりに来るのを、アメリアちゃんが歓迎していないのは、薄々私も分かっている。

 だが、私は泊りたいし、そのたびにアメリアちゃんとギスギスしたくない。


『……あなたに渡せるような、対価はありませんよ?』


 もしかして、敵から塩を受け取りたくないのかな?

 

「香水、見せてもらうお礼でどう?」


 別に対価なんていらないけど。

 そう言った方がアメリアちゃんは納得する気がした。

 

『……いいでしょう』


 案の定、アメリアちゃんは納得してくれた。


「なら、また今度。泊まりに来た時に……」

『それは、ダメです』


 あれ?

 でも、それだとどこで……。


「わたしが、あなたのいえに、いきます」


 あぁ、なるほど。

 それなら私が聡太に近づくのを防げるのか。

 

 ちょっと、目的とは違っちゃったけど……アメリアちゃんが私の家に泊まりに来てくれるのも、アリだ。

 ……ついでに聡太も誘っちゃおう。


 あいつ、全然、こっちに来ないし。

 

 あの人もそうだけど。

 男の人って、どうしてこんなに淡泊なんだか。


「なに、わらってるんですか?」

「アハっ、別に? いいわよ。じゃあ。今度、機会がある時に泊まりに来てね?」


 アメリアちゃんと、楽しい時間が過ごせてよかった。


 しかし、それにしても……。


 聡太のやつ、いつまで秘密にしてるんだろう……?

 秘密にする意味もないような。


 あいつのことだし、もう言ったつもりでいるのかな?

 多分、そうだね。

 母親に似て、大事なこと、やり忘れたり、良い忘れたりするタイプだし。


 ……まあ、面白いから、いいけど!


「なに、にやにや、してるんですか? ……きもちわるい」

「ちょっと、思い出し笑い」

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