エリート主義学院の超越せし者たち
結坂有
一年生編
第一章:選ばれし者の学院
列車に揺られて…
「ここ、座っていいかしら?」
景色の流れる列車の窓を眺めていると扉が開いた。
最近では珍しいこのコンパートメント形式の列車は個人的にはあまり慣れないものだ。どうやらそれは扉を開けたマスク姿の女性も同じようだ。
「ああ、構わない」
そう言うと彼女はスーツケースを棚に入れると俺の目の前に座った。
「……新入生、なのよね?」
流石に無言の時間が続くのが嫌だったのか、彼女は俺にそう尋ねてきた。
無論、この列車に乗っているのは一部の人間以外は新入生だ。
加えて今の俺は学院指定の制服を着ている。もちろん、入学式を終えてからは服装は自由なのだが、イベント行事などにはこの服を着ていくことになるのだろう。
「見ての通りだな」
「それに、私と同じ特技生なのね」
俺たちが向かおうとしている学院は普通とは大きくかけ離れた存在だ。
政府が主導する先端教育を担う施設として、一つの孤島を開発し学院群を作り上げた。
そして、その学院群は『トレンミュール』と名付けられ、それぞれが密に連携し先端教育や高度研究を行っている。
俺や目の前の彼女は制服のデザインからして特技生だ。
この特技生と言うのは、全国から優秀な才能を持つと認定を受けた人だ。もちろん、その審査はとてつもなく厳格なものだ。
特技生の他に招待生と言う学生もいる。
彼らは大企業や政治家、資産家などの子息に限定されている。中には別の理由で入学を許された人もいるようだが、多くはそう言った人たちだ。
このトレンミュールの学生は大きくこの二つに分類される。ただ、一般枠として全体の一割程度は通常の入学試験を受けた人たちだ。
詳しいことはこの後に始まる入学式にでもわかることだ。
そもそも、この学院群は機密扱いになっている。少なくとも、多くの国民は生活をしていて名前を聞く程度だろう。その内情を知っているのは一部の人間と言える。
「……そうだな。この学院にはたまたま受かったみたいだ」
「たまたま? 才能を持っているって認定されたのに?」
「俺もよくはわかっていないんだ」
「ふーん、まぁあの審査もよくわからないからね」
通常、特技生は才能があることを証明するための審査が行われる。ただ、それは面接のようなものもあれば、極秘裏に調査されて選出された人もいる。
俺はただ手紙に書かれた通りに来ただけだ。
「そう言えば、名前を聞いていなかったわね」
「アルサファス・スカイフェードだ」
「えっと、アルサ……」
「アルサファスだ。妙な名前だと自分でも理解している。周りからは”アル”とよく言われていた」
「そう、じゃこれからはアルって呼ぶことにするわ」
この名前は俺の親が付けたわけではないのだが、そんなことは今はどうでもいいか。
すると、彼女は付けていたマスクを外す。その顔はテレビなどで見たことがあるものだった。確か名前は……
「私はレヴィ・ブリステン。テレビでよく聞くでしょ?」
「ああ、天才女優だったな」
「お、驚かないのね」
「普通は驚くものなのか」
「変装してるとはいえ、有名人だし?」
確かに偶然この個室で出会って、それも二人きりの状態だ。
加えて彼女は変装こそしていたものの、その美貌は一目で惹きつけられるものがある。
「そうなのか」
「変な人。高校ではどう過ごしていたのか、気になるわ」
「高校は普通だった。レヴィは仕事で忙しかったのか?」
「ええ、授業なんて出たことがないもの」
「それでよく卒業できたものだな」
「勘違いしないでよね? 勉強してなかったわけじゃないから、各科目の成績はそれなりに良かったわ」
まぁ授業に出れないのは彼女の仕事柄仕方のないことなのかもしれない。それに彼女は子どもの頃から役者として活躍していた。
高校側もそれを承知の上で入学を許可したのだろう。いや、それとは違った思惑があるのだろうか。
「まぁあの高校からしてみれば、私は良い宣伝材料だったのかもね」
どうやら彼女もその思惑に関しては薄々気付いていたようだ。
「それにしてもいいのか? このトレンミュールでドラマや映画の仕事はできないのだろう」
「いいのよ。私にも夢があるから」
「夢?」
「誰にでもあるでしょ? そういうの」
なるほど、その夢に向かうためにこの学院群を選んだのか。
それにしても彼女の夢とはなんだろうか。少なくとも学院に通っている間は仕事ができない。女優ではない何かを目指しているのだろうか。
「確かにそうだな」
「そう言うアルも夢はあるの?」
「一応ある。人に言えたものではないがな」
「何よそれ」
夢と言っていいのかはわからないが、人に聞かせたものではないからな。
「とにかく、それ以上は聞かないでおくわ。私もあまり話したくはないし」
「人に話せないような夢もよくあることなのか?」
「うーん、わからないわね。人によるだろうし」
「なるほど、では、似た者同士と言うわけか」
「ふふっ、そうなのかもね」
そう美しく微笑んだ彼女はふと窓の外を見た。
このトンネルを抜けたら普段は見ることのできない景色が見えることだろう。
「……すごいわね」
窓の外は海が見える。それは下の方を見てもだ。
まるで海の上を低空で飛んでいるかのような景色だ。
それもそのはず、この列車が通る線路は普段は海底にある。
入学式や卒業式のような多くの人がトレンミュールに向かう時だけ海底から現れる。
「これ、一体どれだけの費用がかかっているのかしら」
「トンネルを抜けて十キロほどは続くらしい。線路だけで数千億はいくだろうな」
「税金の無駄遣い、ってわけではないか」
「どうだろうな。トレンミュールの存在が俺たちの国にとってそれほど重要だと言うことなのかもしれない」
「さすがはクラベリートって感じよね」
そう言ってレヴィはキラキラと輝く海を眺めながらそういった。
俺たちの住むこの国はクラベリート、世界でもトップクラスの技術大国であり、第二位の経済大国だ。
そして、俺たちはその政府に認められた、選ばれた未来に向けての布石なのだ。
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