勇者に憑って、憑られて!?
たゆな
第一部 勇者に呼び出された勇者
プロローグ
──何だ、あれは。
気付けば、突如として視線の少し先に現れた巨大な漆黒の後尾。何も無い荒野に唯一存在するであろう小さな岩陰へ……俺はあの獣に気付かれることがないように、ゆっくりと身を隠しながら思考を巡らせる。
近年、国壁の外に出現する魔獣にあの様な凶悪な見た目をしたものは居なかったはずだ。しかし
観察に夢中で身を乗り出し過ぎてしまったのか──一瞬、振り返った魔獣の視線が俺へと向いたのを認識した。
──まずいッ! ……気付かれたか?
俺は直ぐ様、背負った覚えのない黒色の柄を持つ
気の所為だ、きっとまだ気付かれてはいない。”偶然、この岩付近にある何かへと興味が移っただけ”などという希望的観測を抱いていた俺だが、岩を覆い隠す程に巨大な影の端が自身の足元に見えた瞬間──隠れ続けるのを諦め、反対方向へと走り出す。
──ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!
背後の岩が粉砕される音と共に、けたたましい咆哮が鳴り響く。その音を生み出した存在から距離をとる為、全力で身体を動かすが、何故か強烈な違和感を覚えた。
─────おかしい。
全身のあらゆる感覚に、俺が想像していたモノとのズレが生じている。
それが恐怖からなのか、あるいは別の要因によるものなのか。何れにせよ……最早あの怪物から逃げ切るのは不可能ということを理解した俺は、背中の剣を抜き、巨獣へと対面する。
大木のように太く長い尾を生やし、蜥蜴の様に四足で地面を這いずる漆黒の巨獣は、軽々と岩を粉砕することが可能なほどの硬度を持つ鱗で全身が覆われている。やはり、コイツは俺が以前書物で見た特徴通りの魔獣で間違いない。
するとそこで、新たな問題が発覚してしまった。黒色の柄に、白銀の刀身、自身が普段から使っている武器ではない──しかし、そんな事はどうでも良いと思える程の事実が。
──これ、は?
柄を握る手が違う、それに連なる腕が違う、地に着けて立つ為の両足が、困惑から漏れ出るその声が──何もかもが自身の記憶するものとは一致しない。
──ああ。
眼前に迫る漆黒の魔獣を見詰めながら、俺は理解した。……なるほど──突如としてこの場に現れたのは、この巨獣の方ではなく自分自身だったのか、と。
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