メレンブルク家

(イグナルト視点)


「歳ですかね?流石に少し息があがりました。」


馬車を走らせる事十数分、

メレンブルク家の屋敷にたどり着くとセバスさんは持ち上げていた馬車を地面に下ろし息をつく。


少しって・・普通の人は持ち上げる事すら出来ないのにこの人と来たら。

60歳を過ぎてこの体力、一体どんな体の構造しているんだよ?


「私は馬車の修理の依頼をしますのでここから屋敷の案内を他の者に・・・」

「それなら、俺がやりますよ。お帰りなさいお嬢。それと、ようこそおっさん。」


屋敷の中から執事服に身を包んだ一人の少年が現れる。

見た目からして歳は12歳だと思われる。


執事と言ってもこの少年からは執事特有の礼儀や上品さが感じ取れない話し方をしていた。

本当に・・そこらにいる生意気な子供の様に感じ取れてしまった。


「レオン、お客様の前でご無礼ですよ。申し訳ございません。こちらの教育不足でご無礼を・・・」

「いえ、大丈夫です。」


おっさんか。

23歳でおっさんか。

まぁ、見た目からして10歳以上は年が離れているからおっさんと言われても仕方ないと分かっていても。

何故か、心に来る悲しい感情がある。


「レオン、イグナルトに無礼な口を聞いた事を謝罪しない。」

「失礼しました。お客人、お詫びとしまして最高級の紅茶を準備します。」

「それでいいのよ、メレンブルク家執事の失態はメレンブルク家の失態。そのあたりを重々承知してもらいたいわ。私みたいに品位を溢れる振る舞いを・・・・」

「お嬢の好きなマカロンもティールームに準備が整ってます。」

「お説教は後よ、・・イグナルト私は先に行くわ。」


ローズが『マカロン♪マカロン♪』と歌いながら軽快なステップで屋敷の中に入っていく。

そのあとを『お嬢様はしたないですよ。』と言い追いかけた。

本当に貴族か甚だ疑問に思う振る舞いに呆れてしまう。


「いや、お嬢は扱いやすいですね。ではおっさん・・・すいません、お名前は何といんですか?」

「俺か?俺はイグナルト。イグナルト=ソル=ルドベキア。」

「イグナルトって?騎士団で有名な伝説の・・・」

「悪いがその異名は気にいってないからできればイグナルトと読んでくれるとありがたい。」

「承知しました。・・俺の名前はレオンです。4年ぐらい前からメレンブルク家の執事見習いとして働いております。今後ともよろしくお願いします。イグナルトさん・・それではティールームに案内します。」


レオンの案内でメレンブルク家の館に案内された。

外から見た豪華な外観とは裏腹に内装は外とは違いシンプルでかつ落ち着いていた装飾。


案内された部屋の中には紅茶と茶菓子が置いてあり、ローズが先に席に着きマカロンを数個平らげていた。


「お嬢、客人を放っておいたらダメじゃないですか。」

「えぇ、イグナルトはそんな事を気にしないから別にいいのよ・・・ね?」


俺れに同意を求めてきた。

4年前に比べて成長したから少しは大人らしい所もあるかとも思ったがまだまだ子供の様だな。


まぁ、ローズの言う通り俺はそんな事で怒ったりする性格じゃないので正しい意見だと思う。


「イグナルトさんもお嬢を甘やかさないで下さい。」

「なによ、レオン。・・・あなたも礼儀作法では人の事を言えないくせに、セバスにまたしごかれるわね。」

「師匠にしごかれるのはお嬢ですよ。次期メレンブルク家の上に立つ器に鍛えあげるって言ってましたよ。」

「げぇ!マジで?」

「マジです。今の姿見られたら監禁部屋で地獄の礼儀矯正が始まりますね。」

「い、嫌すぎる。」

「それが嫌でしたら礼儀正しくする事ですね。」

「もぉ、分かったわよ・・・全く、贔屓よね。

礼儀に関してはセバスって、レオンに対して寛容だからね。」

「寛容って言っても最低限のマナーにはうるさいですよ。・・・少し雑談が過ぎましたね。師匠の所に行ってきます。」


レオンがティールームを出ていきローズと2人になってしまう。


「レオンたら・・イグナルトも何か飲むかしら?」

「そうだな、コーヒーは置いてあるか?」

「あるに決まってるじゃないの。誰か、イグナルトにコーヒーをお願い。」

「ところで・・あのレオンは5年前から働いてると言っていたが相当幼い頃からこの館にいるようだな。」

「そうね、私の2歳下だから今12歳のはず・・そうなると7歳の時から働いているわね。まぁ、レオンは少し事情があってね、ここで働いてるの。」

「事情?」

「えぇ、レオンは罪子よ。」


罪子・・

それは両親が罪を犯した子供の事を指す。

罪を犯してない無関係な子供達を罪子として虐げる文化が昔からある地域が一定数いる、

この地域は特に罪子に厳しい村が多くある。


「レオンと会ったのは5年・・森の中をセバスと歩いてる時にあったの。当時は酷く酷い姿をしていたわ。全身血だらけで骨も至る場所が折れていたわ。命も危険な状態。もし、発見が遅れたらと考えると・・・」


考えると・・・

その続きは口にはしなかったが言いたい事は分かった。


「そうか。しかし、昔はともかく今は罪子狩りを正式に撤廃するようになっているはずだからレオンも村に戻ろうと思ったら戻れるし、嫌なら他の村にも移れるじゃないか。」

「そうね、私もそれは考えたはレオンをあんな酷い姿にした村に戻すつもりは無いけど、他の村で暮らす事を勧めた事はあったわ・・でも、レオンはこの館に残って執事になる道を選んだは。」

「そうか、ローズに救われた恩を覚えてるんだろうな。」

「それだけではないけどね。」


それだけではない?

レオンは一体何がこの館に残る理由が他にもあるのか?


「他になにか・・」


俺が他の理由があるのか尋ねようとすると理由を聞かさないようにするよう

こん、こん、と誰かがドアをノックして部屋にセバスさんが入室する。


こうして、俺はローズから理由を聞くタイミングを逃したのだった


「失礼します、イグナルト様・・馬車の修理の件ですが1日と半日掛かるそうです。」

「そうですか・・」


あの損傷をそんな短期間で直してくれるんだから相当頑張ってくれたと思うが・・家に帰るのが遅くなるな。


「何か、深妙な顔つきですが何か予定でもおありでしたか?」

「あ、はい。実は・・」


俺は誕生日を祝ってもらう為に早く家に帰りたい事を伝えた。

まぁ、その修理期間ならギリギリ間に合うが道中何があるか分からないからあまりコンを詰めるスケジュールはしたくなかった。


「そうですか、分かりました。では修理を早急に済ませるように伝えます。」

「ありがとうございます。」

「でも、イグナルトが自分の誕生日を祝うなんて以外ね。」

「いや、俺は別に誕生日を祝わなくていいって言ってるのに・・娘がうるさくて。」

「娘?・・えぇ!!イグナルトいつから娘がいるの?」


ローズは驚きを全身で表現するように椅子から転げ落ちる。

そんなに驚くことか?

俺が騎士団を辞めたことを知っていたらシエルの事も知ってると思ったんだがな。


「知らないわよ、あたかも有名みたい言わないでよ。」

「セバスさんは知ってますよね。」

「はい、娘さん本人を拝見した事はないですが、先日世界の看板娘ランキングと言う雑誌で拝見しました。」

「えぇ!あれに出ていた子!ちょっと待って何位の子?」

「確か、3位だったはずですが・・非常に可愛い容姿をしておりその容姿から内面も非常に可愛らしいお嬢さんとセバスは勝手ながら思いました。」

「えぇ!!この子私の推しの子よ。まじで3位なんて結果あり得ないと思って編集部に貴族名で見る目がないと炎上させたわよ。」


炎上させたのはローズかよ。・・ありがとうございます。


「おかげでお嬢様はご主人様からメレンブルク家に名を汚すなと怒られてましたね。」

「本望よ。」

「そんなにシエルの事が好きなら今度会いに来てくれよ?」

「えぇ!いいの!ぜびぜび!!ねぇ、セバス。」

「はい、その際はよろしくお願いします。少し、話が脱線しましたが馬車の修繕が済むまでは我が館にいらっしゃるって下さい。」

「分かりました。短い期間ですがお言葉に甘えお世話になります。」


こうして、俺はしばらくの間メレンブルク家でお世話になる事になった。


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