任務復帰


一週間後。


◆騎士団本部ミカエル 食堂



「シエル、美味いか?」

「うん!おいしい。」


イグナルトとシエルは騎士団内にある食堂で食事をしていた。


シエルの母であるマハイルが亡くなってから一週間程はシエル自身も喪失感とショックでロクに食事を取る事も出来なかった。

そんな彼女も周りの力を借り、前の元気な姿に戻りつつあった。


しかしそんな良い状況の中で一人の男は不満を漏らしていた。


「はぁ、辛い物がたべたい・・」


イグナルトであった。


シエルが食堂で食事をするようになってから彼女の美味しそうに食事を取る姿を見た給養班の人々はシエルが喜ぶ料理を準備するようになり、ここ最近メインの献立は「オムライス、ハンバーグ、グラタン、カレー(甘口)、パンケーキ」などと子供が喜びそうな料理が続いていた。


イグナルトはその献立では物足りずにいた。


なぜなら、彼は根っからの辛党であったからだ。

最近の献立では辛味が足りずに満足できていなかった。

シエルが元気になったのは嬉しかったが辛い物が食べれないのはつらいイグナルトであった。


(はぁ、近々グライスの店で激辛料理を爆食いしてやる。)


そんな野望を胸に潜めながら食事を終える。イグナルトは隣に目をやるとシエルがまだ食事をしていたので『慌てずにゆっくり食べなさい。』と言い自分は食後の珈琲を楽しむ。


そんなリラックスタイム中、座る席を探す女性団員の集団がシエルの存在に気が付き、騒ぎ始める。


「待って、シエルちゃんいるよ。」

「え、ほんとだ、相変わらず可愛いわね。」

「隣に座りましょう。」

「「「賛成!!!」」」


そんな会話をしながらイグナルトに女性が声をかける。


「イグナルトさん、隣いいですか?」

「あぁ、いいぞ、シエルも良いよな?」

「うん、」


イグナルトとシエルの許可を頂いた女性団員たちは隣に腰掛ける。


「シエルちゃんは本当に美味しそうに食べるね。」

「うん、シエル、ここのご飯好きだよ。」

「「「可愛いい。」」」


シエルが笑顔で返事をすると周りの女性団員が可愛いと騒ぎ始める。


職業がら騎士団内は殺伐としており花など一切無かった。

そんな中にシエルと言う、超絶美少女が入って来たのだ。

一輪花と言うよりは桜の木の様な存在感であり、シエルは騎士団内で癒しのスポットとなっていた。

特に女性団員からの人気ですごく、良く遊んでもらったり、お菓子やらぬいぐるみなどを貰って帰って来る事も多く、何もなかったイグナルトの部屋は貰い物でいっぱいになっていた。


「ねぇ、ごはん食べ終わったらお姉さん達と遊びましょうか?」

「え?いいの!お姉さんたち大好き・・・」


【大好き】その言葉を聞いた女性団員たちは『はぁ~ん』と言い次々と倒れていく。


そんな奇妙な状況に割って入る様に総副団長のライアスがイグナルトに声をかけた。


「いたいた。イグ、少しいいか?」

「はい。」


イグナルトはライアスの元へと近づく。


「どうしました?」

「あぁ~、実は団長がお前を呼んでいるんだ。」

「俺をですか?わかりました。」


イグナルトはライアスの言われるがまま総団長室に向かった。

シエルも連れて行こうとも思ったが女性団員たちに囲まれていたのでそのまま預ける事にした、


◆騎士団本部ミカエル 総団長室 


「イグナルト、失礼します」

「あぁ、イグ来たか」


ノックをして部屋に入室したイグナルトに対し総合団長のフラロスが声をかける。


「どうしました?」

「あぁ、シエルちゃんの調子はどうだ?」


フラロスはイグナルトに様子を伺うように尋ねる。

イグナルトはその状況に不信感を持ちながらも話を続ける。


「シエルですか?最近は元気過ぎるぐらいですよ。」

「そうか・・・なら安心したよ。」

「あ、でも、この後どうするかは悩んでます。」

「どうするとは?」

「シエルの引き取り先です。」

「は?・・・お前がシエルちゃんを引き取るとでも思ってたんだが?」

「お、俺ですか?無理ですよ!雑草も枯らす男が育児なんてできませんよ。」

「・・・たしかに。」

「でしょ。なのでシエルには良い引き取り先を探してあげないとですね。」

「・・・だがシエルちゃんはイグと離れるのを嫌がると思うがな。」

「そこが問題ですね。」

「お前自身も嫌だろ。それに本心ではシエルちゃんを引き取りたいと思ってるだろ」

「・・・。」


イグナルトは答える事が出来なかった。

なぜなら、フラロスが言ってる事は合っていたからだ。


イグナルトはシエルを引き取りたいと考えていたがそれは出来ないでいた。

マハイルが亡くなる前に娘を託された事もあったので面倒は見るつもりではあるが騎士団の仕事をしているイグナルトにとっては育児は難しいのであった。


平気に任務で半月以上も僻地へ送られる事もざらにある職業が騎士団である。そんな騎士団に所属する彼がシエルを引き取ると彼女を一人にする時間が増えてしまう。


更にはシエルを育てる自身もなく、彼女の事を考えると他の引き取り先を探すのが最善と考えていた。


「・・・で、俺を呼んだのはシエルの引き取り先の件ですか?」

「あ、すまん、話しが脱線した。」


フラロスは脱線した話を戻し

本題に入った。


「イグナルト=ソル=ルドベキアに任務を依頼する。復帰戦だ。」


任務を離れて2週間近く。

伝説の兵士の復帰戦が始める。


そしてこれが彼の正式な騎士団としての最後の依頼になる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る